馬車 13

 予想外の足止めを食らってしまったが、本来の目的に戻ろう。

 見回りってやつ。

 ただの言い訳だろって?

 そうなんだが、そうじゃないのだ。


 盗賊はさっき倒したので全部じゃない。

 襲ってきたのはほぼほぼ壊滅しただろうが、それとは別に拠点に残ってるのが居るはず。

 あそこまで大きな集団だったんだ。

 間違いなく近くに拠点がある。

 街の外での大人数での移動なんて、距離が長くなるほど比例してリスクも跳ね上がるのだ。


 普通だったら深追いなんてしないんだが……

 ポーションの件があるしな。

 探られると痛い腹だ。

 さっきの戦闘から逃れただけの、末端の団員が生き残ってるだけならともかく。

 盗賊団そのものと拠点が残ってるのは不都合。


 後は、それなりに金の方も溜め込んでるだろうし。

 盗賊なんてのは刹那的な生き物。

 奪ってもすぐに使ってしまう。

 貯蓄なんてほぼないと思った方がいい。

 ただ、襲撃直後なら話は別。

 ここ周辺の死の匂い、明らかに濃かったからな。

 商団を襲ったのも直近だ。

 一週間以上前ってことはないだろう。


 無論、商人から報酬は貰う。

 貰うのだが……

 時間外労働をした訳だし、プラスアルファがあってもいいよねって事で。

 あくまで金はついで。

 証拠隠滅が主だが。

 それなりに大きい商団から奪ったであろう金品、ある程度は期待していいはず。


 勝ち目のない存在に目をつけられて、不幸な奴らだ。

 まぁ、奴らも同じこと繰り返してた訳だしな。

 因果応報ってやつ?

 そもそも、襲って来てきっかけを作ったのも向こうだしな。

 だから、悪いのはお前らである。

 冒険者と一緒だ。

 単純に、運が悪かったって事で。


 目に魔力を込める。

 さっきと同じ、対象は人間だ。

 ただ、今回は精度を落として範囲を広めに。

 拠点を探すんだ。

 それなりの人数がいることが予想出来るからな。

 大した精度は必要ない。


 数人で動いてるのは、冒険者のパーティーだろうか?

 仮に盗賊だったとしても、馬車でも襲いに行ってる下っ端か。

 末端に興味はない。

 ちまちま潰すほど暇でもないし。


 大所帯。

 街の外だというのに、かなりの数だ。

 襲ってきたのと同じぐらいの人数いるのでは?

 それが一箇所にとどまっている。

 乗合馬車とか行商人とは明らかに違う。

 ここだな。


 案外簡単に見つかった。

 かなりの規模の盗賊団だが、魔術師はいなかったらしい。

 変に偽装でもされてたら、探すのに少し時間がかかったかもな。

 魔眼は単純に魔力を見るだけの代物。

 故に偽装とは相性が悪い。


 まぁ、俺のはチート仕様。

 普通に使ってる分には、よほどの使い手の偽装以外影響を受けないだろうが。

 今回は精度落として広めに探ってるだけだからな。

 うっかり見落としなんて事もあったかも……

 こんなの大して意味のない仮定かもしれなないが。

 優秀な人間なんてのは引く手数多だし。

 いくら大所帯でも、盗賊じゃいて魔術師崩れぐらいか。


 一丁前に見張なんか立ててやがる。

 近くに落ちていた枝、それを見張り目掛けて投擲。

 ヒット!

 見事、首に命中した。


 魔法を使わない理由?

 まぁ、魔法で殺してもいいんだが。

 なんか使うの勿体無くて。

 魔法を使うってことは魔力を消費するわけで。

 ここで使うのはちょっとねぇ。

 使いきれないぐらいの量があるし、自然回復の量もバカ多い。

 とっといた所で結局使わないのだが。

 なんとなく、気分の問題だ。


 それに、汗をかいてまでお金が欲しくは無いというか。

 大して疲れもしないんだけど。

 多少なりとも魔力は減るしね。

 今回は、あくまでボーナスを貰いに来ただけ。

 追加で労働をしたい訳じゃない。


 あ、魔眼は別枠である。

 普段から薬草採取で使ってるからね。

 敷居が低いのだ。


 見張の剣を貰い、そのままサーチアンドデストロイ。

 壁越しですら相手の位置がわかるのだ。

 気分はウォールハック。

 敵の拠点という場所的にはアウェイだが、圧倒的に俺有利な戦場。

 適当に殺しながら進む。

 拠点の奥、宝物庫的な場所に到着。

 途中、威張ってるでかい男がいたがあいつがこの盗賊団のボスだったのだろうか?

 モブより多少ステータスは高かったが、俺からすれば大差なかった。


 オープン!

 これは……、結構溜め込んでるな。

 盗賊ってすぐ散財するイメージがあったんだが。

 この量は直前の襲撃分だけじゃ無いな。

 随分前から溜め込んでいたらしい。

 何か目的でもあったのか。


 これだけの金額あればそれなりにデカい事が出来る。

 この盗賊団、人数もいたし。

 例えば、あの人数の盗賊にまともな武器を持たせたとして……

 小さな街ぐらいなら占領出来たかもな。

 それを計画してたかは知らないし、実行した所で本当に占領出来るかは不明。

 あくまで可能性って話だ。


 ただ、こんな大規模な盗賊団で頭領をやってる奴だ。

 その上で貯蓄まで作って。

 荒くれ者なりにカリスマと頭脳のある人間だったのだろう。

 デカい野望を持っていてもおかしくはない。

 ここで満足せず、さらに上へって。

 英雄の素質ありだな。

 少なくとも、さっきの冒険者より当たりだったかも。

 殺したのはもったいなかったか。


 まぁ、今更後悔しても遅い。

 後の祭りだ。

 金は想像以上に手に入ったのだし。

 それで、充分。


 変に欲張ると碌なことにならないからな。

 もともと、この盗賊団には消えてもらう予定だったのだ。

 英雄の素質があるからと見逃せば不都合が起きるかも。

 そう思えば、無駄に悩まずに済んでよかったとも言える。

 結果オーライってことで。


 取り敢えず、宝物庫の中身はありがたく回収させてもらおう。

 俺が有効活用してやる。

 ただ、この量だ。

 手で持って帰るのは当然無理。

 そもそも、見張りに行くって言って大荷物抱えて戻ってきたら不自然きわまりないし。

 全てアイテムボックス行きだな。


 いやー、結構な臨時収入になったな。

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