馬車 11
しばらく観戦してた訳だが。
盗賊も結構減ってきたかな、という所。
……そろそろだろうか。
目に魔力を流す。
魔眼だ。
別にこんなところで急に薬草採取を始めたりはしない。
やる事は、盗賊の残数の確認。
条件付けはシンプル、人間とだけ。
盗賊だけを魔力で個別に認識は無理だしね。
いや、やろうと思えば出来るのかもしれないが。
前世でもプログラミングの類はさっぱりだったのだ。
あまりやりたいとは思えない。
どう考えても、細かく条件付けする羽目になるだろうし。
めんどくさいったらありゃしない。
無差別のままでも、実用上特に問題はないし。
今更、改善する気もない。
視界にいくつもの光が浮かび上がる。
冒険者と、盗賊と、あとは馬車の乗客か……
とにかく周囲にいる人間が全てだ。
薬草と違って動き回る訳だが、そこは流石のチート仕様。
遅延なしのリアルタイム反映である。
その光が次々と消えていく。
面白いくらいにあっさりと。
現実世界での殺戮が、かなりシステマチックな表示に早変わり。
こうやって見てるとまるでゲームみたいだな。
どこか現実味が薄れるというか。
盗賊もこの世界に生きてる人間だ。
別にデータじゃない。
だから、この感情は決していいものじゃない。
そこは理解しつつも。
悪人を殺して無駄に心に傷を負いたくはないしね。
ありがたく利用させてもらっている。
近くだと、もう馬車の外にいる人間の反応は冒険者だけかな?
盗賊の片付けも終了、か。
これだけの大所帯だし、もしかしたら抗える奴もいるかと思っていたんだが。
無しと。
いや、冒険者の方に少しバフを掛け過ぎたのかもしれない。
強化幅がデカ過ぎて、仮にそんな存在がいたとしても目立つことなく殺されてた説濃厚か。
英雄級2人は荷が重いわな……
まぁ、終わったことだ。
早めに片付いたし、結果オーライって事で。
剣を投げ捨てる。
盗賊の1人から手首ごとぶん取ったやつだ。
最後の方は眺めてただけだったけど。
それでも、何人も人を斬ったからな。
もう鈍だ。
「助かりました。ありがとうございます!」
「ん?」
冒険者から礼を言われる。
視線も、尊敬の眼差しってやつ?
それを感じる。
いつの間にか敬語に変わってるし……
まぁ、ガチで命の危機だったしな。
分からなくはない。
元々の俺を知ってたのだとすれば、さらにって感じか。
受ける依頼といえば薬草採取ばかり。
それが終われば、昼間っからギルドで飲んだくれてる。
10年以上前からDランクのままのおっさん。
客観的に見た俺の評価といえばこんな所か。
……我ながら終わってるな。
こんな感じで、尊敬とは正反対の位置にいた訳で。
多少は見直したって事かね。
まぁ、悪い気はしない。
別に舐められても大して気にしないが、それはそれこれはこれ。
こんな視線を向けられるのも久々だ。
尊敬されて嬉しくない人間はいないだろう。
ただ、ちょっと勘弁してほしい気持ちもある。
もともと緊張しいなのだ。
別に人見知りってほどでもないが。
前世でも営業の新規開拓なんかじゃ死にそうだったし。
変に注目されても困る。
「ちょっと周り見てくるから、片付けは頼んだ」
「はい!」
「……あ、警戒は怠るなよ。あのポーションの効果、いつ切れてもおかしくないんだから。その後じゃ盗賊1人でも危険だろ?」
「もちろんです!」
これだけ言って、場を離れる。
別に不自然ではないはず。
周囲にほぼ盗賊がいないことは魔眼で分かっているが、そんなこと俺以外は知らないし。
警戒に動くのは自然。
人間、勝ったと思った後が一番危ないなんて話はよく聞くしね。
むしろ油断せず気を引き締めてて偉いまである。
まぁ、単純に居心地が悪いから逃げたんだけど。
尊敬されて居心地が悪いとか、なかなかに捻くれた性格だ。
これも俺が変わってないせいだろうな。
チートを存分に活かして英雄にでもなってれば、この程度どうってことなかったんだろうけど。
きっと、緊張しいな性格も治っていた事だろう。
なんか、自分を変える機会ってやつをことごとく逃してる気がする。
前世の年齢も超えたと言うのに。
……俺って、とことん成長しないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます