馬車 6
依頼を受けると決めたのだ。
報酬を受け取るからには、しっかり仕事をこなさないとな。
契約は大事だ。
前世でも、異世界でも。
おそらくどんな世界に身を置くことになったとしても、そこに社会という仕組みが有れば信用第一は変わらない。
俺は冒険者になってから、なんだかんだ依頼を失敗した事がない。
依頼達成率100%。
10年以上コンスタントに活動してる冒険者でこの数字ははまず存在しないだろう。
異世界に来て何をするでもなく無為に時間を過ごしてる俺だが、この数字はちょっとした自慢だ。
ま、ほぼほぼ薬草採取で稼いだ訳で。
大した依頼を受けてないだけだと言われればそれまでなんだけど。
今回でせっかく100%でキープしてる達成率を下げるのは勿体無いし、多少の気合いは入るというもの。
久々に、と言うかほぼ初めて失敗する可能性のある依頼だしね。
……まぁ、今回の依頼はギルドを通して受けた訳ではない。
闇営業ならぬ闇依頼。
失敗したところで記録に残るものでもないし、関係ないっちゃないんだけど。
別にこの数字をひけらかした事など無いし。
あくまで自分の心の中での自慢。
だから、記録というよりは記憶の方が重要であり気分の問題である。
つまりは自分で決めた時点で引き下がる選択肢など無いって事だ。
とはいえ、無駄に目立つつもりはない。
要は、この馬車を盗賊からうまく逃がしてやれればそれでいいのだ。
チート全開にして大立回り、なんて事は不要。
ここでやり過ぎたせいであまり周りがうるさくなっても困るしな。
もちろん多少は覚悟してるが。
最低限に留めるに越したことはない。
今の生活、手放すには惜しいほど快適なのだ。
なんとか上手い事やりたい所ではある。
結局、盗賊をどうにかしないことにはこの馬車は助からない。
馬車を暴走でもさせて、無理やり突破できるならとっくにそうしているだろうし。
商人の青年は交渉でどうにかしようとしていたが。
それが出来たらどれだけ楽だった事か。
コイツらはまともに話の通じる人間じゃない。
どのみち、ある程度は殺さないとだよな。
これは確定事項。
向こうも数が減れば撤退するなり、嫌でも交渉に乗るなりするだろうし。
ひとまず、馬車から降りる。
いつまでもここで作戦をこねくり回していても仕方がない。
多少出たとこ勝負になってしまうが、俺の頭で思いつくような作戦じゃどうせ計算外が頻発するのが関の山。
細かいことは事前に考えるだけ無駄。
その場の流れで、臨機応変にってやつ。
外では今なお護衛の冒険者が盗賊相手に頑張っているのだ。
依頼は馬車を救う事なので、彼らは対象外ではあるが。
今、パッと思い付いた作戦的に生き残りは多い方が都合がいい。
視線が一斉に集まる。
盗賊どもの、こちらを値踏みするかのような目線。
俺の装備を見てそれは嘲笑に変わる。
気持ちのいいものじゃないな。
「お、英雄様の登場か?」
「英雄気取りの間違いだろ」
「それにしちゃ年食ってるんじゃないか?」
「違いない」
「「「ギャハハハハ」」」
下品な奴らだ。
まぁ、盗賊達の感情も理解は出来るが。
誰が出て来るかと警戒してみれば、普段着のおっさんって。
そりゃ、そうなるわな。
まともな装備を付けてない俺が悪い。
嘲笑されても仕方ないレベルの無防備さだ。
「おい、なんか言ったらどうなんだ?」
「ビビちまったのか?」
けど、ムカつくな。
悪人相手だし、逆恨みだなんだと言われる筋合いもない。
普段は適当に妄想だけで済ませているのだが。
今日は溜まったストレスは相手に直接ぶつけてもいい日だ。
そう考えると悪いことばかりでもない。
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