馬車 4

「キャーー!!」


 悲鳴で目を覚ました。

 そう、目を覚ましたのだ。


 あれだけ治安が悪いと自覚しておきながら、結局馬車で寝落ちした間抜けは俺です。

 ……だって、仕方ないじゃん。

 眠かったんだもの。

 馬車の揺れと陽の光が気持ちよくて、気がついたら夢の中に旅立ってしまっていたのだ。

 我ながら馬鹿だとは思う。

 考え無しと言われても否定は出来ない。

 まぁ、快楽は全ての合理的な理由に優先されるって事で。

 人間楽しむために生きてるんだから、快楽に流されるのも別に悪い事じゃない。

 そういう言い訳でここはひとつ。


 幸い、荷物が盗まれていたりもなかったし。

 結果オーライである。

 メリットだけ享受出来たのだから、過ぎたことをいつまでも振り返っていても仕方がない。

 適当に生きるのこそ吉だ。

 しかし、明らかに熟睡してたと思うのだが。

 何も盗られなかったのか……

 この世界も案外捨てたもんじゃないのかもしれない。


 現在進行形でそれ以上の事態に直面している訳だが。


 さっきの悲鳴、原因は盗賊だ。

 確認するまでもなく、すぐに分かった。

 なんせ目覚めてすぐ視界に入ったし。

 そう、馬車の中で眠りこけてた俺が目を開けてすぐ視界に入ったのだ。

 これがどれほどの異常事態か。


 盗賊の存在自体この世界じゃ珍しくもなんともない。

 それもどうなのって話だが。

 実際問題として、街の外に出るなら覚悟しなければならない危険のひとつだ。

 経験則で言えば大体10%ぐらいは遭遇するイメージ。

 よく働く盗賊も居たものだ。

 それに比べて、国にはしっかり仕事をして貰いたい所。

 街が点在してるから大変なんだろうけど。

 魔物も現れる以上、盗賊だけ狩るってわけにもいかないだろうし。

 費用対効果が最悪なのだろう。

 そんな訳で、盗賊が現れただけなら誰も悲鳴をあげたりしなかったと思う。


 視線の先には見慣れない男が1人。

 街を出た時には馬車の中には居なかったはずだ。

 明らかに場違いな服装。

 腰の鞘からはすでに剣が抜き放たれている。


 盗賊が馬車の内部まで乗り込んで来たのだ。

 いくら治安の悪さに慣れた異世界の住人とはいえ、これには悲鳴の一つでもあげたくなるのだろう。

 この事態に気づかずにすやすや寝てた自分の鈍感力にはビックリだ。

 前世ではここまで図太くはなかった筈なんだけど。


 しかし、この手の馬車は必ず護衛を雇ってるはずなんだが……

 そいつらは何処にいったのだろうか?

 確かにこの馬車は安馬車だ。

 客から取れる料金が少ない以上、護衛に大金を出すのは不可能。

 利益がなきゃ商売にならないし。

 ただ、だからって護衛をケチるのはあり得ない。


 馬車が盗賊に襲われる確率は10%程度。

 なら襲われないことに賭けて護衛を付けずに、なんて選択もありそうに思える。

 経費は最低限で済むし、より多くの利益を取れるだろう。

 が、その馬車が目的地に無事に到着できる可能性は5割を切るはずだ。

 盗賊に襲われる確率が10%程度ってだけで、一方的に発見される確率はかなり高い。

 その馬車に護衛がいれば向こうも多少は躊躇する。

 盗賊だって命懸けだ。

 失敗すればどうなるかぐらい理解している。

 だから、例えば単独行動中に馬車を見つけたとしてそこに護衛が居れば襲うことはない。

 護衛には抑止力的な効果もあるのだ。

 実際に襲われた時だけが仕事という訳じゃない。

 それに、盗賊に襲われれば客だけじゃなく商人の身にも危険が及ぶ。

 そういう意味でも護衛を付けてないなんて選択肢はない。


 この馬車に乗った場所。

 あそこには乗客の他に護衛であろう冒険者が結構な数居た。

 この馬車の護衛もその中にいると思ったんだが。

 手帳で予約の管理をするぐらいの几帳面な商人だし。

 そこを疎かにするとは考え難いんだけど。


 ……外を見て、納得した。


 ヤバいな。

 人数が違いすぎる。

 この盗賊、かなり大規模な盗賊団だったらしい。

 そりゃ、この程度の安馬車で雇える冒険者じゃ対応は無理だな。

 雇えてもCランクのパーティーをひとつって所だろうし。

 それじゃどうしようもない。


 もうすでに何人かは殺されてる様子。

 全滅も時間の問題、か。

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