少女は語る

少女は私を手招きし、椅子に座るように仕向ける。私はそのまま座った。

少女は、というと、本を何冊か重ね、その上に腰かける。

少し沈黙。私は、この少女に流され、今こうやって座っているわけだが。

なぜ、この少女がこの図書館にいるのだろう?迷いこんだ?…それは無理なはずだ。出入り口がなかった。密室だ。窓も、開けられるようなものではない。これはないな。

じゃあ、ここに昔からいる幽霊とか?…幽霊…であることは確かだ。この少女は私のことを触れられない。さっきぶんぶんしてた手が、私に当たらないことからも、そういえるだろう。…根拠が少なすぎるがまあ、しょうがない!そう、しょうがないのだ。

昔からいる。となると、ずっと幽霊だった。でもこんな近代的な服を着るものだろうか…

だったらこう、和服とか、着物とか…そういうのを着ている。

わからないなぁ…

でも別に、この少女の正体を特定する義務はない。彼女と話すなかで特定していけばそれで良いか。と、そう思うことにする。

考えが止まると、少女は話しかけてくる。


「なんでも疑心暗鬼さんなんすね、アナタ」


微笑みながら、少女はそういった。


「やっぱり、初対面の人にまずは自己紹介っすよね!こんちは、平樹悟利ひらきさとりっす。サトリって呼んでくださいっす」


…悟利

8月29日に死んだと記述してあった。

いつの8月29日かはわからないが、交換日記のノートの頁数や、日にちの空きかたからして最近のことだろう。


「うーん、なんとなく察してると思うっすけど、まあ、去年の8月29日、自分の異能力によって死んだっす。…異能力というより、代償…と言った方が良いっすかね?」

「…異能力?」

「うげ、知らないんすか?」


記憶がないから仕方がないだろう。

というのは、また失礼だろうから、申し訳なさそうに言う。


「お恥ずかしいが、記憶が全くない。だから、そのいのうりょく?とやらも、わからない。できたら世界のことについて、貴女に聞きたい」


素直にそう伝えた。


「……あー、そうっすね、アナタ記憶喪失なんすか。あの人がここにいれたのもなっとくっすね」


サトリは楽しそうに私を見回す。

特徴的な眼が、ゆらゆらと揺れていた。


「じゃあ、アナタ、自分の名前憶えてないんすね。せっかくなら神様につけてもらってください」


サトリは自信満々な表情で満面の笑みを浮かべた。


「ふふふふふ!よぉーく聞いてくださいっすね!ワタシの知っていること、全部教えて差し上げましょう!」


そういって、サトリは私のための特別講習会を開きはじめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る