私の眼の前の言葉達が

私の眼の前には薔薇と豪邸。それに見合う美しい神様がいる。


「ここ、どこです?」


単純な質問だった。

けれど、何となく予想はついていた。


『僕の家。まあ、僕の恋人の家なのだけど。綺麗だろう?』


最初に白薔薇に眼を引かれたが、鮮やかな華々が私を迎えるように咲き誇っていた。

私が先ほどいた悪趣味な家とは比べ物にならなほど美しい場所だ。


『ここで少し準備をして、これから旅でる』


神様は、眼を伏せそういった。

少し名残惜しいような、そんな顔だった。


『…君はすることがないだろうから、暇を潰しておいで』


神様はそう言って私の手を引く。重そうな扉を神様は軽々開け、私を先に入れた。玄関…といえない広さ。豪華な階段、美しい絵画、それと、目の前には本棚があった。

見たことない言語だ。

幸い、私は文字が読める。自信が話せる言語に限るが。

だがこれは、人間の歴史においてもまた、理解不明な文字だ。

認識がしにくい。掠れて、今にも消えそうにも見えれば、其処に堂々と居座っているような、訳のわからない文字だった。


『□□□□□□』

「…ぇ」


神様が赤い背表紙の本に触れ、訳のわからない言葉を発した。呪文のように聞こえて、私には到底理解できない言語だった。


ガチャ


鍵の開いた音がする。

神様は右手で力強く本棚を押した。すると、真っ黒い空間が現れる。


『いってらっしゃい』


背中を押される


「え」


私が声を発した。

神様の行動に、気をはることはしていなかった。隙だらけだった。

地面とほぼ垂直に立っていた足のバランスが崩れる。押された反射で目を閉じる。

…?


…目を開けると其処には、あり得ないほどの本があった。

どこを見渡しても本棚、二階にも三階にも広がっている。豪華な装飾や綺麗な窓から見える庭の景色よりも、本の数に圧倒される。すべて綺麗に並べられていた。

神様は私になにをさせたいのだろう?

情報収集?知識の確認?

わからない…



とりあえず、眼にはいった本に手を伸ばした。ひとつだけ目立っていた。

分厚い本の隙間、薄い、ノートのようなもの。表紙には『交換日記』と、書かれている。


見ていいのだろうか?

わからない。が、少し気になる。

誰と誰の交換日記だろうか。


表紙を開くと、所々が破けてぼろぼろだったが、文字でびっしりだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る