話しましょう
神様は、常に『大丈夫?』だとか『ごめんね』だとか、申し訳なさそうに私の頭を撫でている。
少し恥ずかしいようなそんな気がするが、見てる人間もいない(人間はもう、ほぼ全て滅んでいるらしい)ため、気にせず堪能していた。
気が済むと、神様はそれを察知したのか、私の手を取り立ち上がらせた。
そして、手を離し、『ついてきて』と言った。
無言で歩く。少し気まずいので、私はまた思考を始めた。
神様の左手、薬指に、指輪がはめられている。記憶がない私でも、なぜかわかる知識だ。結婚指輪。すなわち、神様は結婚している。
相手はどんな人なんだろうか。やっぱりこういうのは相手も神なのだろうか。
『…ああ、これ?恋人から貰ったものだよ』
思考を読まれた…ことに吃驚したが、神様なのだから、ありうることだろう。きっと。
結婚はしていなかったが、神様にも恋人とか、いるんだ、意外だ。
「その恋人は、どうなったんです?」
かくせんそう?とやらで、世界は滅んだらしいが、その恋人が人間だった場合、もう死んでしまっているだろう。
もしも私だったら、と考えても、大事な人がいた記憶がないので、同情はできなかった。
『うーん、彼、すぐにどっかに行ってしまうからね。わからないけれど、生きていることは確かだよ』
確信をもった発言だった。
なんとなくだけれど、神様から恋人への信頼と想いが伝わってきた。推せるな…
けれど、なぜ確信することができるのか。
「なぜ、確信できるんです?かくせんそう?とやらのせいで、人間はほぼ死んだのでは?」
単純な疑問を投げ掛けた。
すると神様はよくぞ聞いてくれたと言わんばかりの満面の笑みで答える。
『ふふふ、彼はね、人間じゃないし、それに、「不死」を司る神なんだ』
「不死」を司る神。
神様の恋人は神。そして、不死。
死ぬことがない。最も幸福であるとも、最も不運であるとも言える言葉だった。
死ぬことがない。死が怖いもの、人間からしたら最高だ。頂点に立った人間が目指すのは不老不死だからだ。しかし、辛いのは、最愛の者が、不死ではないということ。生物である限り、人間は皆死ぬ。
死は、生についている機能の一貫だ。それが欠落している。となると。
…私だったら、逆に怖くて駄目だな。
そして、神でも死ぬ。という事実がわかった。神が不死であれば、不死を司る神は、あまり意味をなさないはずだ。だから、神様も死ぬ。
うーん、どうやったら死ぬのだろう?
心臓を刺すとか動脈を切るとか?胴体を二つに切れば死ぬだろうか?んー…神に心臓や動脈なんてあるのだろうか?それに、まっぷたつにする道具なんてないな…
『君、だいぶ猟奇的だね。考えていることが怖いよ』
「エッ」
バレてる…!
『一応僕は、或る人間の身体を元に創っているけれど、あんまり人みたいにコロッと死なないよ。…でも、意外と人みたいに簡単に死んでしまうかもね。僕は神になってからの経験が浅いから』
神になってから、ということは…
神ではなかった時があったということだろうか?
質問しようとすると、神様は僕に背を向け進んでしまった。
…私、記憶喪失だが、どうやったら人は死ぬとか、覚えているんだな。「自分の過去の記憶」は全くないが、憶えているものはあるのだ。もしかしたら、軽度い記憶障害?なのかもしれない。…記憶喪失に軽度なんてあるのか?
うーん。わからないな。
考えても答えは出ない。持っている知識と常識が少なすぎる。外部からの情報収集もまた難しいだろうな。ここら一帯、荒れ地だし。
『あ、もうすぐ着きそうだよ』
神様は私の羽織の袖をつまんでひっぱった。
なんだか動作がかわいらしい。
神様と私が歩いた先、いつの間にか視界の先に白い薔薇が咲き誇る豪邸が広がっていた。
かくせんそう?とやらのせいで、世界は壊滅状態だ。それなのにも関わらず、美しく堂々たる姿で、其処にあった。
神様のローブについているブローチ、左耳についているピアス。両方とも、白薔薇が飾られている。
ここはきっと、神様が住まう場所、それか、神様が作り出した場所だろう。
神様が門の鍵を開け、門が大きく開かれる。すると、薔薇の香りがただよってきた。優しくて甘い香りだ。
そんな場所に私は、足を踏み入れた。
空はもう、春香る穏やかな水色に包まれていた。
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