第1話覚醒
宮原叶は、一つため息をついた。本部からの直々の命令で背筋を伸ばしていたが、何の変哲もない普通の高校へのスカウトだった。こんな所に‘’コレ‘’を使える人間がいるとは到底思えなかった。叶は手に持つアタッシュケースを見る。すると右腕に装着しているブレスレット型の機械が叶に言葉を話す。
『ため息ついてもしょうがないじゃない。アースがいるっていうんだから間違いないでしょ』
声の主はブレスレット型の機械はSAC・No19。
《セイヴァー・アシスト・チェンジャー》、通称SACはセイヴァーズが独自に開発した人工知能のAiとパワードスーツに変身できる機能があるブレスレット型の機械で、セイヴァーズの選ばれた隊員が装着しているものである。
「わかってるよ。急ぎの任務だから早く適合者をスカウトしましょう」
校舎に入るとまだ授業の時間ということもあり人が歩いていなかった。この学校の校長には事前にアポを取ってはいたものの、教員も生徒も忙しい為当然出迎えなんてものはなかった。廊下を進んでいくと一人の男子生徒が窓の外を見ていた。サボりだろうと叶は思ったが丁度いい所にいたので、目を瞑って男子生徒に校長室の場所を問いかけた。
男子生徒は叶を一瞥すると、突き当りを左に行けばあるとだけ伝えその場を去った。
「ありがとうございます。助かりました」
去る背に礼を言い校長室に向かう。
「いやはやお出迎えできずに申し訳ありませんでした」
校長は白髪混じりの丸みを帯びた顔でへこへこと頭を下げる。
「いえ、お気になさらず。例の件ですが心当たりありそうな人物はいましたか?」
叶の言葉に待ってましたとばかり校長の鼻が膨らむ。
「もう彼しかいないでしょう!授業終わりに来るように伝えてあります」
叶は内心協力的で助かったと思った。自分の生徒を戦場へ送り出すということに悪いイメージを持たられていても不思議ではなかったからだ。
しばらくして校長室にノックが響く。校長が入るよう促すと失礼しますと大きな声で部屋に入ってきた。
先ほどの男子生徒とは対照的な背の高い好青年というイメージが叶に浮かんだ。
「彼の名は遠野真守君といってバスケ部のエースでねぇ、文武両道の我が校の誇りだ」
「よろしくお願いします!」
将来を約束できない世界である今、彼はかつての徴兵があった頃の日本兵のような心境なのだろうか。はたまた正義の為に戦えることに誇りを持っているのか、叶には想像がつかなかった。
「すぐにどうこうというわけではなく、まずは遠野さんの適正があるかの簡単なテストを本部でします。それから結果を報告してもし適正があればぜひという流れでお願いしたいです」
話は纏まった。後は書類にサインを貰うだけ。準備をしようとしたその時だった。
サイレンの音が響き渡る。
『非常事態発生。非常事態発生。ワープホール開きます。場所は…』
場所はまさにこの高校だった。
「校長先生!すぐに校内放送で避難の指示を!できれば体育館とか皆が集まれる場所へ!」
「わ、わかりました!」
ワープホールの出現。それは謎の敵アンノウンの出現を意味する。叶はすぐに応援の要請をした。しかし、近くの部隊も交戦中の為時間がかかるとのことだった。
(私達だけでなんとかしなきゃいけなそうね)
叶はすぐにグラウンドに出てアンノウンをすぐに見つける。大きさはヒグマほどで鋭い爪と背中に甲羅を背負った怪物がそこにはいた。
「着装!」
SACは着装の合図とともに光輝きパワードスーツで叶の身体を覆う。
〈さぁ!ハチの巣にしてあげる!〉
叶はホルダーにある二丁の拳銃型の武器を抜きアンノウンの膝を打ち抜く。
【グオオオオ】
膝を撃ち抜かれ身体を崩し倒れた。これでトドメ。そう思い引き金に指をかけた瞬間背中に衝撃が走る。
振り返るともう一体同じ姿のアンノウンが現れた。
同時多発的にワープホールが出ていた為に警報が間に合わなかったのだ。体勢を崩していた方のアンノウンも起き上がる。叶は視線を校舎に移すとまだ逃げ切れていない生徒達もいた。その中には遠野の姿もあった。二体一な上に守らなくてはいけない人数に頭を悩ませる。ふとアタッシュケースがないことに気づいた。アレが破壊されたらまずい。叶は窮地に立たされていた。援軍も期待できず、このままだと学校にいる全ての人の命が。幸いまだ向こうの人達にアンノウンは気づいていない。そのうちに少しでも引き離さなければ。そう決めた叶だったが先ほどの背中の不意打ちが効いていた。迫りくる二体のアンノウン。万事休す。
「運命ってあるのかもな」
叶は目を見開く。目の前には先程校長室を案内した生徒の姿が。それだけではない。叶が置き忘れたアタッシュケースをその男子生徒が持っていた。
男子生徒はアタッシュケースを開けブレスレット型の機械を着けた。
〈やめなさい!貴方が使えるようなものじゃないわ!それに早く逃げなさい!〉
声を荒げる叶の制止をふりきり男子生徒は宣言する。
「着装」
グレーのブレスレットはたちまち真紅に染まり光輝く。
〈さぁ始めるか〉
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