セイヴァーズ

秋月睡蓮

第0話プロローグ

静寂の中行われている実験に皆固唾を飲んで見守っていた。実験対象者である男の腕は震えているのに誰もが気づく。きっと今回も…。オペレーターである相田愛美は実験対象者に指示を送った。


「それではNO30プロジェクトを開始します。着装してください」

隔離された薄暗い部屋で実験対象者はその指示に返事をする。

その場にいた誰もがモニターを凝視した。計50回は行われたこの実験も成功、失敗に関わらず最後である。

「着装!」

実験対象者の腕に付けているブレスレットが光を放つ。刹那、膨大なエネルギーが薄暗い部屋に放たれた。拒絶反応。実験は失敗である。

「すぐにNO30を外し三上隊員を医務室へ」

本部長の草野忍はすぐにそう告げ人員が薄暗い部屋へと送られる。何度も失敗したことから恒例となってしまい手際もいい。

「また駄目か」

誰かが溜息をつきながら放った言葉に誰もが肩を落とす。


「NO30は特別だからね〜そう簡単には動いてくれないってことだよ~」

呑気なことを言っているAiを除いて。

総司令官の新庄武道はその軽口を叩いたAiことアースを睨む。しかしそれを意に介さずにアースは続けた。

「もう適正ありそうな隊員いないしスカウトするしかないね〜」

その言葉に皆が反応する。セイヴァーアシストチェンジ、通称SACは防衛組織セイヴァーズによって造られたパワードスーツだ。その中でも一番操作が難しいSACを何の訓練も受けていない一般人で試すのは危険すぎる。新庄はアースがただ軽口を叩いているわけじゃないのを知っている。しかし、この提案とも言えない言動に苛立ちを覚えた。


「どしたん?武道。怖い顔してるよー」

「場を和ませようとしてるならその口調はやめろ。我々は今そんな余裕はないんだ」

アースは新庄の言葉にニヤリと笑った。アースは世界最高峰のAiだ。当然人間の感情をも理解できる。

「余裕がないからって僕に当たらないで欲しいね。それに目星はついてるから大丈夫だよ」

「だが一般人にNO30は危険すぎる」

草野はすぐにアースの言葉に反論した。一般人を巻き込むくらいなら時期をみて適合する隊員が現れるのを待つ他ない。そう思っているとアースは声音を変えてその場にいる全員に聞かせるように言った。

「もう時間はない。すぐそこまで奴らは迫っている。現にアンノウンによるイレギュラーホールが増えてきている」


アンノウンとは地球外生命体のことだ。10年前から突如として現れたその存在は人類に大きな被害をもたらした。アースの予測演算によりそれ以前から準備を出来ていたものの被害を最小限には抑えられなかった。

その脅威が日に日に増えている。この場の誰もがそれを実感していた。アースは続ける。

「NO30覚醒以外に我々の未来はない。なりふり構っていられないんだよ」

アースの言葉に新庄は決断をする。

「アースの目星となる人物に接触しスカウトを試みる。ある程度の機密情報を話すこともやむを得ん。直ちに準備しろ」

総司令官の命令に皆が動き出す。これは人類とアンノウンによる全てをかけた戦いの物語である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る