17:王立ギルド受付嬢のシラモチさん
どうもこんにちは!
王立冒険者ギルドで受付を担当してはや五年。そろそろわたしも中堅どころなんじゃないかなァと思うんですが、新人さんがこなくて未だに一番下っ端受付嬢のカガミ=シラモチです。
いわゆる裏方仕事ってやつですね。知ってます? クエストの下準備や支給する消耗品の類って、わたしたちが事前にクエストに合わせて準備してるんですよ。
クエストを請ける冒険者さんたちそれぞれに合わせた備品を揃えて、しっかりと過不足なくクエストに向かってもらうのも、大切なお仕事です。
少なすぎてもダメ。多すぎても鈍重になるのでダメ。実に繊細、かつプロフェッショナルな作業なんですよ。
それを!! 五年も!! 一人で!!
そりゃあストレス解消に少しだけ多めに食事をとってしまうというか。仕事終わりの一杯が気付けば二杯や三杯になっているというか。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、こう、ふくよかな、いや、愛嬌のある体型になってしまったのも仕方のないことなんですよね。
仕事。全部ぜんぶ、ぜーんぶ仕事が悪いんです!!
でも、そんな仕事の中にも癒しがありまして。あ、ちょうどクエストから帰ってきたみたい。
ギルド内に複数のパーティーがわらわらと入ってくる中で、先頭に立ってギルドカウンターまで颯爽と歩いてくる凛々しい重騎士が一人。兜の面を跳ね上げて気さくに声をかけてくる。
「クエスト達成だ。カガミ。報告を頼む」
「はいはーい。いやぁ、今日もカッコいいねぇリカちゃん」
「ちょっと、もぉ。気が抜けそうだからやめてよねその呼び方」
彼女――リカ=タナカは軽くひとつ溜息をついて、兜の留め金を外す。
ばさりと真紅の髪の毛が流れ、金色に輝く瞳を周囲に向けて声を挙げた。
「ギルドへの報告をもって、今回の大規模討伐クエストは完了だ!! これより報酬の分配を行う!!」
低くて、よく通る声。はぁー、イイ。推せる。
お仕事用に凛々しい風を装ってるけど、実は家でだらけるのが好きなリカちゃんを傍から見ているのはとても癒される。
てきぱきとギルドホールに集まっているいろんなパーティの戦果を評価していくリカちゃん。
「ルーク隊、罠によるモンスター群の足止め、見事だった!」
「おうよ、きっちり役割果たしただろ」
「最大戦果はジェイク隊だが、支援組のパドック隊の貢献あってのものである!」
「ああ、バフや回復のタイミングが絶妙だったおかげで、うちの隊が全力で突っ込めたからな」
「そちらの隊も実に精鋭ぞろいでございましたぞ」
それぞれのパーティーの実力を最大に発揮させて、かつそれらを的確に評価する。この指揮能力の高さが、彼女が短期間で頭角を現した理由の一つだよね。カッコいい、実に。うん、実に。
どうしてそんなことが出来るのかと前に聞いたけど、ブラックキギョーではこれくらいできて当たり前だった、とか言われて。たまーに、よく分からないこと言うんだよね、リカちゃん。
五年前、ちょうどわたしがギルドで働くようになった頃に、どこからか流れ着いてきた旅の冒険者だったんだけど。ニィホンから来たとか言ってたけど、世界中のギルド交易図を見てもそんな地名どこにも無いし。ま、イイ女には秘密の一つや二つあるって言うし? そんなに深く聞くつもりもないのです。うん。わたし、器広い!
「リカ。一つ言いたいんだが構わないか」
「……なんだ。言ってみろ、スザク」
……!
キタぁ!! メインパーティのリカちゃんの補佐、というか参謀として組んでくれてるスザク君!! クール! クールな外見と知的なボイス!! はい推せる。こっちも推せる。
「君が大型ドラゴンのブレスを防いだ分の功績はどうするつもりだ」
「そんなことか。いいか、あのドラゴンは今回の討伐対象でなくイレギュラーとして発生していた。事前戦略に入れていないので、魔力障壁などで対応できる人材はいなかった。したがって、私の独断で私が動いた。ギルドからの依頼とは関係のないことだ」
二人の間にバチバチと緊張した空気が流れる。
うんうん。いつものことだねえ。いいぞー、もっとやれー。
「ギルドに追加報酬を要請してもいいだろうと言っているんだ」
「馬鹿な。決められた報酬分は責任を持って働くが、それ以外は自己責任だ」
「どうしてリカはそうやっていつも……」
他のパーティーメンバーも、やれやれといった様子で苦笑している。わかる、わかるよみんな。わたし、敏腕受付嬢カガミはわかるっす。もはやクエスト後の名物だからねコレ。
パドック隊とジェイク隊が互いのメンバーどうしで握手を交わしてまた組もうと言い合って帰っていった。あ、放置しちゃう感じ? だよね、恒例だもんね。
他のみんなも帰って、リカとスザク、そしてそれを見守るわたしだけとなっております。はい。
「リカ。君は任務を優先しすぎる。補佐するこちらの身にもなってくれ」
「任務――クエストは最優先だろう」
「もっと、自分自身を大切にしてくれと言っているんだ」
はっ。この流れは……!? ここ! ここだよリカちゃん!
事前に取り決めておいた作戦を発動させるのは!! 今!
受付のカウンターを五回、連続で叩いて合図を送る。
振り向いた彼女は少し驚いた顔をしてから、真剣な表情をつくってコクリと頷いた。
「スザク。そ、そ、そんなに言うなら、お前に私の一切を委ねてもいいのだぞ」
「生活面の面倒なら、すでにそこの受付嬢に見てもらっているだろう。俺は、君の腕前が些細なミスで失われることが惜しいと言っている」
「~~~ッッ!! 善処するっ!!」
乱暴に兜をかぶりなおして、リカちゃんは部屋から出ていった。
あー。今回もダメだったかぁ。
○
その後、自宅近くの酒場でリカちゃんはヤケ酒を喰らっていた。
「気づけよぉぉ、どう考えても告白だったじゃぁぁん。あの鈍感参謀サマよぉぉぉ」
「まーまー、飲もう。ドラゴンの追加報酬もめでたく出たし」
「受理されるようにうまく処理してくれたんでしょ。ありがとー、カガミぃー」
「わたしも飲みたかったからちょうど良かったし」
机に突っ伏しながらくだを巻くリカちゃん。ちなみにこっちが彼女の素だ。
彼女は、パーティーを組んでいるスザク君とのお付き合いを狙ってるわけで。これが推さずにいられますか!
ギャップ大盛の女騎士と堅物参謀の恋の仲人!! いい。いいよ! これを成就させるためにわたしは受付嬢を続けていると言っても過言ではないのです!
「せっかく異世界に来てさぁ。ブラック企業から解放されたから恋の一つでもしようと思ったのに……! 何で伝わんないのよぉ」
「今回のキメ台詞は直球だからいけると思ったのになー。諦めずに次だよリカちゃん!」
「ううぅ。もっと少女漫画の教えを覚えておけばよかったぁぁ」
「あ、じゃあ聞きにいく? リカちゃんもジョマンガ様のこと知ってたんだねー」
「へぁ?」
ショーン=ジョマンガと言えば、隣国の占い師で、その実力はかなりのものだという。わたしがギルドで働こうと思ったのも占いの結果に従ったわけで。
詳細を説明すると、リカちゃんはひとしきり笑ってからお酒のジョッキをダンと置いた。
「えらくふざけた名前だけど、いいわ! もう藁でも何でも! よぉし、お酒おかわり!!」
「じゃわたし大皿追加でー」
リカちゃんの恋が成就する日はいつの日か。それはそれはもう、楽しみなのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます