13:異世界転移〈偶像英雄〉PASTEL RAINDOW GIRLS〜グループが解散確定した7人のアイドルと108人のファンたち〜

「今日は大事なお知らせが二つあります!」


「「「なーにー?」」」


「なんと! 私たちの全国ツアーが決定しました!」


「「「「「ウォォォ!!!」」」」」


「……もう一つは、残念なお知らせです」


「このツアーをもって、レインボーパステルガールズは解散します」


「今まで、ほんっとうに応援ありがとう!」


「どうか最後まで、私たち七人を応援してください」


 高まっていた熱気が、一気に鎮まる。

 ざわつくファン達。歓喜、絶望、戸惑い。


 それは、レインボーパステルガールズのメンバーも同じだった。特に、リーダーの桜木さくらぎ火音かのんは怒りに震えていた。


(……納得できない)


 ♢


「納得できない!」


 ライブからの帰り道、火音はアイドルの仮面を捨て、怒りのままに吠えた。いっしょに駅へ向かっていたメンバーたちが「まぁまぁ」となだめる。

 レインボーパステルガールズはマイナーな地下アイドルで、一部のドルヲタにしか知名度がない。素顔のまま歩いても、わめき、キレ散らかしても、炎上騒ぎにはならなかった。


「プロデューサー様が決めたことですもの。今さらどうしようもありませんわ」


「よくない! 何が、『うちもビジネスなんで』よ! 私たちを売るのがアイツの仕事でしょ?! 全国ツアーが決まって、これからだったのに!」


「ウワサじゃ、新グループを立ち上げるらしいな。あたし達が稼いできた金を使って」


「ひどい……」


「ま、アイドル続けたかったら、別の事務所に移籍すればいいじゃん?」


「くーちゃんはスペック高いから、どこでも引き取ってもらえるでしょうね。私は来年アラサーだし、そろそろ潮時かな」


「……ゆかりさん、アイドルやめるの?」


 ゆかりは寂しげに微笑む。

 すると。他のメンバーも「私もやめようと思っていたんだ」と言い出した。


「お父様が、そろそろ学業に専念しなさいって」


「ちゃんとした職に就きたいんだよ。保育士とか看護師とか」


「グループが解散したら田舎に戻るって、じいちゃんとばあちゃんに約束したんだぁ」


「なりたくてアイドルになったわけじゃないし、続けても続けなくてもどっちでもいいかなー」


「予定は早まったけど、女優に転身するつもりよ。知り合いの劇団に誘われているの」


「み、みんなと活動できないなら、このままアイドル続けたって意味ない……かな……」


「……」


 何も言わなかったのは、火音だけだった。


 火音はどうしてもトップアイドルになりたかった。トップアイドルになって、周りの人間を見返したかった。


(みんなも同じ気持ちだと思ってたのに)


「……もういい」


「火音ちゃん?」


「私、クソデューサーにもう一回抗議してくる!」


「火音!」


 火音は駅ではなく、事務所があるビルへ走り出した。今度は解散が撤回されるまで、徹底的に抗議するつもりだ。


 メンバーも火音を止めようと、後を追う。

 すると、おかしなことが起こった。


「やめといたほうがいいよ、火音ちゃ……きゃッ?!」


 メンバーの一人が悲鳴とともに、


「?! 白雪ちゃん、どうし……ひゃ?!」


 消えたメンバーを気づかい、足を止めたメンバーも消える。

 残ったメンバーはその瞬間を目の当たりにし、悲鳴を上げた。


「ひッ?! ゆかりさんが消え、ぎゃッ!」


「な……なんな、のぉぉぉー?!」


「何で地面に穴、がッ?!」


「桜坂さん、待って! 桜坂さ、」


「……みんな?」


 凍えるような冷たい風が吹き抜ける。

 火音は足を止め、振り返った。後をついて来ていたはずのメンバーが、一人残らず消えていた。


「え、なに? ドッキリ? もー、どこのテレビの企画? 隠れてないで、出てきて……」


 次の瞬間、火音の立っている地面に光の輪が現れた。重力に従い、輪の中へ落ちる。


「わーッ?!」


 光の輪は火音を飲み込むと、消えた。

 そこそこ人通りのある道だというのに、彼女たちが消えた瞬間を目撃した者はいなかった。


 その日を境に、「レインボーパステルガールズ」は行方不明となった。


 ♢


能力スキル変換コンバート』『歌:魔法攻撃』

『ダンス:物理攻撃』

『ビジュアル:カリスマ度および魅了スキル』

『衣装:武装アイテム』

『マイク等音響設備:攻撃威力増加アイテムおよび物理武器』


『アイドル:〈    〉』


 ♢


 光の輪に落ちた後のことは、正直よく覚えていない。


 気がつくと、火音は桜が美しい西洋の王国に立っていた。周りを石の壁に囲まれ、中央には立派な城が建っている。

 うすいピンク色の光がキラキラと輝きながら舞っている。触れると、冷たい。雪だった。


 この国の人たちだろうか、中世ヨーロッパのような古めかしい衣装に身を包んだ人々が火音の前に集まっていた。指輪やブローチなど、ガーネットのアクセサリーを身につけている。

 突然現れた火音に対し、すがるような眼差しを向けていた。


「ようこそ、〈偶像英雄アイドル〉様!」


「我々を悪しき魔物どもからお救いくださいませ!」


「…………え?」

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