03:唐揚げは美味しい
少し揚げすぎで黒ずんだ唐揚げを口にほおばって、咀嚼する。
うん、鶏肉の肉汁が漬け込んだ香辛料とマッチして最高!
さすが、お母さんの作るお弁当。もう毎日食べても飽きないよ。
誰もが幸せになれるお昼休みの時間。
広げたお弁当に入っていた、九個めの唐揚げを美味しそうに飲み込むと、ちょっとふくよかな女子高生は幸せそうに頬に手を当ててから、肩をすぼめる。
お肉美味しいんだけど、ね。
今日も食べすぎちゃったかなぁ。
それから、ブンブンと頭を振る。
いや、そんなことない。だって健康が一番大事だし。それに毎日ちゃんと運動してるし、学校までの朝ダッシュだけれど。
そもそも育ち盛りだから、一か月ぐらい本気でダイエットすれば、簡単にスリムな体になれるはず。無理なダイエットをしてストレスをためるよりも、ストレスフリーな食育活動の方が青春してるって感じだよね。
それに、いいもんね、あたしには、幼馴染の彼がいる。
雄太は、いつもあたしの食べるところをにこにこしながら見ててくれるから。
だから、大丈夫。
きっと。
たぶん。
そう思いたい。
彼はあたしを見捨てないって。
──と、思っていたのに。
お昼休み、聞いてしまった。
聞いてはいけなかった、彼の不用意な発言を。
「おい、雄太。おまえ華子のことどう思ってるんだ? いくら幼馴染だ、つってもなあ。さすがに、あの食欲は暴力的じゃないか? 本当は、おまえだってスリムな女の子に興味があるんだろ? ほら、いつも二人で仲良くしてる学級委員長のあずささんみたいな、な」
「え! う、うん。まあ、な──」
雄太といつも一緒に行動してる、あたしの雄太に悪いことばかりを吹き込む悪友の淳二。
今日の昼休みも、教室の窓べりで優雅にお弁当を食べている学級委員長で美人のあずささんを、ちらちらと見ながら小声でしゃべっている。
その話し声が、ほんとうに偶然にも聞こえちゃった。
そりゃさ、女のあたしだってあこがれちゃうよ。
制服の袖からチラチラと見えるあずささんのスリムな二の腕。校則に従った、ひざ下スカートから見える黒いハイソックスにおおわれた、キュッと引き締まった足首。
クラスの皆にわからないように、机の陰にかくれてそっとつまんだあたしのおなかは、ぷにょぷにょと、音が聞こえるかのように揺れる。
やっぱり、ちょっとやばいかな。
よし、来月から。
いや、来週から。
ううん、だめだそんな弱気じゃ。
やっぱり明日から。
ここで本気をだして、雄太の関心をあずささんから取り返さなきゃ。
頑張るんだよ、華子。小さなころから、やればできる子だったでしょ、あたし。
あたしは、カバンからスマホを取り出してお母さんにラインする。
『お母さん、明日のお弁当、肉抜き、ごはん抜きにして。それで代わりにサラダを詰めて』
『え、どうしたの華子。おなかの調子わるいのかい?』
『ううん、そうじゃないの。ちょっと思うことあって、明日からダイエットしようかなって』
『なんだい? もしかして好きな男の子とか、できたのかい?』
『どき。そんなんじゃないよ。ちょっとね』
『近所のお肉屋さん、豚肉セールだったので沢山買っちゃったんだけど。しかたないわね、お父さんとお兄ちゃんのお弁当にまわすね』
あたしは、決心が鈍らないようにスマホ画面を隠すようにしてカバンに戻すと、はあ、とため息をつく。
お母さんにも宣言した。もう、後戻りはしない、できない。
一か月後、あたしのスリムでナイスなボディを雄太に見せつけて、ぎゃふん、て言わせてやるんだから。
女の意地を示すように、ぐっと握りしめた右手の爪がふくよかな手のひらに食い込む。
★
あああ、ゆうつだなあ。
淳二の奴の手前、あんなこと言っちゃったけど。
別に、あずささんにはこれっぽっちも興味ないんだよな。
そりゃ、あずささんは学級委員長だから、副委員長であるぼくと一緒に行動する場合が多いけど。美人で頭も良くて誰にでも優しいし、男子が好きそうなスリムな体系だけど。
でも、ぼくにとっては、委員長と副委員長の関係、それ以上でも以下でもないんだ。
やっぱり女の子はふくよかな体系が最高だよ。幼馴染みたいな。
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