三分咲き
「教えてあげるよ、桜がなんで美しいのか」
僕は目を細めた。
先日たまたま出会った彼女が、なぜかまたそこにいた。
どうしてそこにいるのか疑問に思うが、質問に答えないとまた桜を見るのを邪魔されそうで、先に答える。
「いらない」
「そう言わず。大人しく聞きなよ」
これ以上抵抗しても意味はないだろう。
僕は押し黙った。
「桜はね、散るからこそ美しいんだよ」
「よく聞くことだな」
「はは、そう言わず」
彼女の笑いは乾いたものだった。それを機に会話は終わり、僕は桜を眺める。
今日の桜は満開だ。
つい先日開花したばかりだから、桜は本当に一斉に咲くということを思い知らされる。
あとどのくらい桜を見られるだろう。一週間後にはもう見られるかもわからない。
せっかくだし、明日も見に来よう。
決意して桜を背にする。
「また明日、桜が散るのを一緒に見よう」
僕の考えを見透かしたかのように、彼女は僕の影を縫った。
僕はぎこちなく振り返る。
今日も彼女は意味深に笑っていた。
桜が散るのは明日ではないだろうに、いったいどうしてそう言ったのか。僕にはよくわからない。
彼女を避ける意味でも、明日は夜桜を見に来よう。
しかし彼女は、夜桜を背に僕を向いて笑っていた。
「なんでいるんだよ」
「君を待っていたから」
「僕が来なかったら? どうして僕なんだ?」
溜まりに溜まった疑問を、
僕の
彼女の笑みと、夜桜が、月光に映える。
「最初に言ったはず。君は、わたしに似てるから」
「でも、僕が来なかったらどうしてたんだ」
「来るまで待ってただろうね。君が、桜が散るまでにこの場所を訪れることはわかってたから」
僕の行動を読むような彼女の姿が、僕に希望をもたらした。
もしかしたら。
「今日は、君に桜が散るところを見せようと思って」
僕の思考を遮るのは、狂乱したかのような彼女の言葉だった。
「桜が散るところを、見せる?」
夜桜がひらひらと花弁を落とす。
まさか、これが「桜が散るところを見せる」ということではあるまい。
僕の表情を窺い見て、彼女は再び意味深長に笑う。
「まあ、見てなよ」
彼女が笑うと同時に、夜桜が枝を動かした。
比喩ではない。月光を背に、目視できるくらいの速度で、夜桜の枝が彼女に向かって伸びる。
いったいどういうことなんだ、これは。「見てなよ」と言ったくらいだから、彼女が操っているのか?
僕の疑問は留まるところを知らず、その間に桜枝の動きは激しさを増す。
「ほら、
彼女が儚く笑う。まるで、散りゆく桜みたいに。
彼女の言葉通り、桜枝が勢いよく彼女の身体を貫く。
「は――」
漏れ出た声が僕の声か、彼女の声だったか――それとも、桜の声なのかはわからない。
ただ緊張と焦燥の中、
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