第20話 そして没落です
「陰りって言っても。藤原仲麻呂、じゃねぇわ。恵美押勝に対抗できる勢力とかあんのか?」
「おお、開口一番乗り気でね。では、前回の続きを語っていきますね。恵美押勝に対抗できる。唯一にして絶対の権力者とは……孝謙上皇です。ノイローゼになっていた孝謙上皇ですが、僧である道鏡(どうきょう)の看病により元の気性の荒い性格が戻り始め。政務に口を出し始めました。淳仁天皇は政務に口出されることを快く思わず。また、道鏡との関係が近すぎると苦言を呈すと。孝謙上皇は激怒し『……母の光明子の代からずっと我慢してきたけど。もう、あったまきた! 国家の大事はこれから私がする。だから、アンタは雑務でもしてなさい!』と宣言し。淳仁天皇と孝謙上皇の仲は取り返しのつかない領域に入ります」
「おお、人間らしくなってきたじゃねぇか。今までは、母の人形みたいだったからな」
「孝謙上皇が国家の大事は私がすると宣言しましたが。実際はどうだったかと言うと。淳仁天皇が権勢を握っていました。……と、言うのも天皇の大権を示す二つの神器である。駅鈴(えきれい)と印璽(いんじ)を淳仁天皇が握っていたからです」
「駅鈴と印璽だって? 印璽はなんとなく分かるが、駅鈴って何だ?」
「駅家(うまや)と呼ばれる。馬が置かれている施設にて見せる鈴ですね。天皇から駅鈴を借りた伝令は、各地に造られた駅家と呼ばれる施設にて、駅鈴を見せることで馬を借り継ぎ。天皇の意思を遠方地まで伝達することが可能でした。……この駅家に備えられている馬の使用を許諾できるのが天皇だけであった為。古代では、駅鈴が天皇大権の一つとして見做されており。駅鈴と印璽、略称、駅印を併せ持つことが天皇の証明と言えたのです」
「ほうほう」
「そして、この天皇の象徴たる駅印は、孝謙上皇は一度も所持したことがありませんでした。何故かと言うと、母である光明子が天皇でもないのに駅印を所持し。光明子が亡くなると淳仁天皇の手に渡ったからです。天皇大権を取り戻す為、孝謙上皇は、配下に命じて淳仁天皇の手から駅印を強奪し。更に淳仁天皇を捕らえて幽閉します」
「行動が速ぇな」
「孝謙上皇の手に駅印が渡ると。恵美押勝の討伐の印璽を押し。配下に駅鈴を持たせて、数多の駅家を介して討伐の詔を地方まで喧伝します。天皇大権を行使により。朝敵と見做された恵美押勝は命からがら近江国へ逃げます。近江国は恵美押勝の拠点であり、また恵美押勝は朝廷の軍事の最高責任者であったため、この地にて兵を徴兵し。この状況の打破を目論みますが。この行動が自らの首を絞めることになります」
「どういうことだ? 体勢を立て直すにはうってつけと思うんだがな」
「吉備真備(きびのまさび)と呼ばれる。唐の皇帝からも一目置かれる智謀に長けた人物が孝謙上皇に付いていまして。恵美押勝が近江国に入る前に官庁を抑え込み。朝廷の名で徴兵できないようにしたのです」
「はぁ、頭の切れる奴だな」
「恵美押勝は打つ手がなくなり、同伴していた皇子を天皇にする暴挙を行いますが、正当性もないため民から見向きもされず。そのまま討たれます。この乱は、恵美押勝の乱と呼ばれ。如何に権勢を握った臣下でも、天皇の肩書きを借りなければ、何も出来ないことを露呈させました」
「天皇を立てなきゃ、誰も味方に付かねぇのはよくわかった」
「こうして孝謙上皇は天皇へと返り咲き。称徳(しょうとく)天皇と言う名で即位し。新たな時代を造る……と言ったところで今回は終わりましょうか。次回、奈良時代の終焉。まったねぇ」
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