第15話 藤原氏の律令国家

「おっぱぴぃ。前回、藤原不比等が定めた大宝律令を制定した所まで語りましたよね。今回はその続きですよ」



「へいへい」



「大宝律令の制定により。日本の行政組織も整います。二官八省(にかんはっしょう)と呼ばれる行政組織が整備され。……二官には神祇官(しんぎかん)と太政官(だじょうかん)に分かれ。太政官の下に八省が繋がる形になります」



「ややこしい形だな。つぅか、太政官の下には八省があるのに。神祇官の下には省が一つもねぇのか」



「神祇官は祭祀を司る役職となっていまして。神事や祭事を政治同様に重視する意味合いを込めて最高国家機関、太政官と同列の扱いにしています。……まぁ、裏を言うなら神祇官は代々、中臣氏が任命されておりまして。二官八省を制定した藤原不比等が、親族である中臣氏を政治の中心に持っていき。藤原氏にとって都合の良い仕来りを、祭祀という名目で実行させるために太政官と同列の扱いにしています」



「都合の良い仕来りって何なんだ?」



「少し先のお話になりますけど。とりわけ平安時代になると。儀礼や祭祀では先例(以前に行ったやり方)が何よりも重視され。藤原氏がこれまで行ってきた儀礼通りに進まなければ嘲笑される。或いは、儀礼が進まない状態に陥りました。儀礼を正しく知ってるのは藤原氏だけであり、藤原氏がいなければ年に半数以上もある大小の儀礼が進まないため。天皇ですら藤原氏の意向が無視できない状況に陥ってしまうのです。これも、神祇官が太政官と同列になったために生じた弊害ですね」



「儀礼ってそんなに大事か」



「儀礼は大事ですが。日本の場合は行き過ぎています。藤原氏の繁栄のための儀礼に成り下がっていますからね。……まぁ、詳しい話は平安時代に語るとしまして。話を戻しますよ。国内においては畿内七道に分けられ。地方には国司、郡司、里長が置かれます」



「国司、郡司、里長ってなんだ?」



「国司は地方を治めるために中央から派遣された貴族で。郡司はかつて国造(くにのみやつこ)と呼ばれた地方の有力者です。そして里長は村長ですね。これまでは国造として地方豪族が統治していたのを。国司が統治する形に変わっていきます。前回に語った庚寅年籍(こういんねんじゃく)によって戸籍が6年に一度作られ。作られた戸籍を元に、口分田と呼ばれる土地を配布し。其の土地を耕して得た米を税として回収する仕組みを作りました」



「此処で、戸籍が生きてくるのか」



「また、民衆は祖と呼ばれる口分田で収穫した3%の稲を治める税が課せられており。調と呼ばれる布などの特産物を渡す税。そして、庸(よう)と呼ばれる。都で働くか、それとも布を治めるか選べるハッピー庸セットの税もありました」



「ハッピーじゃないよ。絶対にハッピーじゃないセットだよ!」



「祖は地方にいる国司に渡せば良いのですが。調と庸は京都まで持って行く必要がありました。地方の人々が皆、京まで持って行くことは現実的ではなく。郡司によって代表者が選ばれ。其の代表者が村全員分の調、庸を持って行っていました。これを運脚と言います。運脚に選ばれた代表者は労役として庸が免れる代わりに、四十から五十キロの献上物を背負って京まで歩くことが求められたのです」



「すげぇ負担だな」



「復路であって、食事すらも自己負担であるため帰りに食糧が尽き。食料が付いて餓死したり、疲労と負傷により歩けなくなって力尽き。動けないまま肉食動物の餌となったり、酷い有様だったようですよ」



「…………」



「また、祖が3%と。数字上は軽く見えますが。此の時代の耕作技術はまだ未発達で。与えられた土地で豊作になっても、成人男性の10ヶ月分しか稲が取れず。其処から3%持って行かれると生きるか死ぬかの状況でした。その為、国家が稲を貸し付ける出挙(すいこ)が始まるのですが。国司や郡司はこの制度に目を付け。強引に農民に稲を貸し与え。5割から9割と言った法外の利息を取り始めます」



「法が整備されただけで、やってること未開国家じゃねぇか!」



「まぁ、そんな感じで地方は悲鳴を上げていましたが。中央では藤原不比等が栄華を極めるために二つの制度を作ります。一つが官位相当制(かんいそうとうのせい)で、もう一つが蔭位の制(おんいのせい)です」



「ほうほう」



「官位相当の制によって位階ごとに付ける役職が定められ。位階、官職を所持すると位封(いふ)、職封(しきふ)。この二つを合わせた封戸(ふこ)と呼ばれる給与が与えられました。封戸の戸は農民の一世帯を指しており。太政大臣だと位が最も高いため。位封が300戸。太政大臣の職に着くと職封が3000戸。合わせて3300戸が封戸として支給されました。まぁ、要するに一番高い職に就くと3300世帯の税を自分のモノに出来たのです」



「下が悲鳴を上げてんのにそんなに一人が収奪すんのかよ」



「そして蔭位の制は貴族の子供だったら。子供も貴族の待遇を与えるモノとなってますが。これには裏がありまして。此の時代に高位な位階に存在する貴族は藤原氏しかありませんでした。と言うのも、天武天皇が特定の一族に権力が握られることを恐れ、高い位階を授けなかったからです。しかし、藤原不比等が父の中臣鎌足は死に際に天智天皇から太政大臣を授かったと喧伝した結果。藤原氏だけが、この蔭位の制の恩恵を最大限に生かせました。他の貴族、皇族が位階を抑えられている中、藤原氏だけが高い位階を生まれ流れ引き継げ。藤原氏主導の体制が構築されることになります」



「藤原氏の横暴を此の時代の天皇はどうして赦したんだ?」



「此の時代の天皇は天武天皇の妻、持統天皇でして。前に言ったとおり、武力簒奪したことに負い目を感じており。自分の子や、孫を天皇にするため。確実に補佐してくれる家臣を欲したからです。其の結果、藤原氏が藤のように天皇家に巻き付き、養分を吸って成長していきます。……藤原氏とは言い得て妙ですよね。本当に藤のように成長していきましたから」



「…………」



「まぁ、そんな感じで今回は終わりにしましょうか。次回からは奈良時代に入っていきますよ。それではまったねぇ」

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