第11話 蘇我氏滅んじゃいます
「さぁて、今回は蘇我氏について語っていきますね。権力を手中に収めた蘇我氏は果たしてどうなるのでしょうか。その時、歴史が壊れた。始まりますよ」
「いや、タイトルに答え出てるよ。蘇我氏、死ぬの?」
「いえ、死にませんよ。殺されるだけですよ」
「一緒だよね!」
「前回、蘇我氏が物部氏を打ち倒し。推古天皇と聖徳太子と共に国政を動かしていたところまで語りましたよね。今回は、その後について語りますよ。蘇我氏が権力を握ると国は整い始め。泥棒が道に落ちたものを拾わないほど国内の秩序が整ってきました」
「真っ当な政務を行っていたってことか」
「ですが、そんな蘇我氏を快く思わない者がいました。……其れが、今回の主役であるバーサーカー、中大兄皇子(なかのおおえのおうじ)です。彼は、蘇我氏に政務を握られている現状に納得できず。どうやって一族郎党皆殺し、ゴホン、始末できるかを考えていました」
「開始早々、やばそうな奴が出てきたんだけど」
「蘇我氏の権力基盤は整っており。気に食わないという理由だけでは殺せず。また、聖徳太子の子の山背大兄王(やましろのおおえのおう)が次の天皇候補にもなっており。中大兄皇子が天皇の座に就くことも出来なかったのです。この状況を打開する方法を必死に成って考えていると。一つの名案が生まれました」
「どんな名案が浮かんだんだ」
「……聖徳太子の息子。山背大兄王を始末し。その責任を全て蘇我氏に押し付ければ万事解決じゃね?」
「名案じゃなくて、迷案だよね。なにそのサイコパス的な発想」
「思い立ったが吉日です。自らの母である皇極(こうぎょく)天皇を唆(そそのか)しました。山背大兄王は父の聖徳太子と異なり徳がなく。人の道に反する言動、行動が多くみられます。忠臣である蘇我入鹿(そがのいるか)に命じ。山背大兄王を即刻始末すべきです、と」
「……で、母はどう返したんだ」
「母の皇極天皇も自分の子が天皇の座に着くことを望んでいたため。中大兄皇子の言葉を受け取り。蘇我入鹿に命じて山背大兄王を滅ぼさせました」
「色んな思惑が重なって聖徳太子の息子が殺されたんだな」
「蘇我入鹿が山背大兄王を殺したことを知った。蘇我入鹿の父、蘇我蝦夷(そがのえみし)はなんと馬鹿なことをしたのだ。これでは我々が滅ぼされる口実を与えたようなものだと慟哭します。そして、その懸念は数年後に実現します。……645年の儀礼の最中、蘇我入鹿は押し入ってきた中大兄皇子に斬り伏せられます。蘇我入鹿は崩れ落ちながらも、必死になって皇極天皇の近くまで這い上がり。私に、わたしに一体何の罪があるのでしょうか! と悲痛の声を上げますが。中大兄皇子が、貴様が天皇になり替わろうとしたのが罪だと叫び。それ以上語ることを赦されず殺されます。蘇我蝦夷は息子が殺されたのを知ると。抗うことなく。邸宅に火をかけて自害し。生き残った蘇我氏の宗家は中大兄皇子によって、老若男女関係なく皆殺しにされます」
「……」
「この中大兄皇子のクーデターを乙巳(いっし)の変と言い。この暴挙は母である皇極天皇も予期してないことであり。心身を崩して天皇の座から降り。中大兄皇子を次の天皇に推薦しますが。他の豪族は中大兄皇子が天皇になることに否定的で。中大兄皇子も時期早々と判断し。傀儡(かいらい)として都合のいい者を次の天皇に推薦しました。それが、孝徳(こうとく)天皇です。……操り人形が、孝と徳があるって、なんか皮肉がきいてますよね」
「ノーコメントで」
「乙巳の変の後、中大兄皇子は皇太子(次の天皇の第一候補)となり。蘇我倉山田石川麻呂(そがのくらやまだのいしかわのまろ)と言う無駄に長い人が右大臣(実権ナンバー3)に。そして中大兄皇子のズットモである中臣鎌足(なかとみのかまたり)が内臣(政治顧問)に任命されました。あと、前回に少し語った。唐から帰国した高向玄理(たかむこのげんり)、旻(みん)を国博士(唐の政治制度を日本風にアレンジする職)に任命しました」
「あれ、蘇我氏って滅亡したんじゃなかったのか。くそ長い蘇我の名が見えたんだが」
「蘇我氏の宗家が滅んだだけで。分家は生きてますよ。それに。この蘇我倉山田石川麻呂は、中大兄皇子と共に蘇我入鹿の暗殺に加担した人物でして。中大兄皇子に付いたため高位な職が渡され。さらに数年後」
「左大臣に昇進でもしたのか」
「中大兄皇子によって始末されました」
「えっ、マジ?」
「相手はバーサーカーですよ。話が通じるわけがないじゃないですか。まぁ、こんな感じで中大兄皇子に協力した蘇我氏すらも排除され。権力が天皇、と言うより中大兄皇子に集っていきます。また、都を飛鳥から難波に移すと。646年に、豪族の田荘(私有地)、部曲(私有民)の所持を廃止し。全ての国民と土地を国家に帰属させる改新の詔が出されました。これにより、公地公民制へと変わります」
「これらも全て、孝徳天皇じゃなく。中大兄皇子が主導になってんだろう。本当にお飾りの天皇だったんだな」
「いえ、そういうわけでもありませんよ。孝徳天皇は行政区画の単位を評(こおり)と規定して。法令が地方まで届くように整備しました。この孝徳天皇と中大兄皇子の改革を纏めて。大化の改新と呼ばれています」
「大化の改新ねぇ」
「ちなみに、孝徳天皇は難波に移ると実権を手に入れたと思い込み。天皇の専権を用いて政治を行い始めると。中大兄皇子は前天皇である皇極天皇を始めとした。臣下を引き連れ。前の都の飛鳥に戻りました。すると難波には有力者が殆ど残らず。広大な宮殿に孝徳天皇だけ残され。孤独のままポツーンと亡くなりなったとさ。めでたし、めでたし」
「めでたくないよ。全然、めでたくない。かわいそ過ぎるだろう!」
「さて、次回はついに、あのバーサーカーが天皇に? お楽しみに」
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