第12話 白村江の戦いとその後です

「今回は中大兄皇子の大活躍回です。彼が天皇になるために(刃が)走った。栄光の(鮮血の)ロードについて語っていきますね」



「副音声が物騒すぎんだけど」



「では、始めますよ。……前回、孝徳天皇は中大兄皇子に見捨てられ。孤独のまま亡くなると言いましたよね。今回はその続きからです。孝徳天皇が亡くなると、中大兄皇子は母である皇極天皇を再び天皇になることを推し。皇極天皇は斉明(さいめい)天皇として重祚(ちょうそ)します」

 *重祚とは、退位した天皇が再び天皇になることを言いますよ。



「まだ、天皇にならねぇんだな。大化のバーサーカー、中大兄皇子は」



「天皇にならないのではなく。なれなかったのです。有力豪族たちが、中大兄皇子を警戒してまして。その空気を悟った中大兄皇子は、まだ時期でないと判断し。母を推しました。周囲の豪族も。バーサーカーよりマシかと同調した結果。退位した皇極天皇が、斉明天皇と名を変え。再び天皇の座に戻ることになります」



「豪族から大分警戒されてんな。中大兄皇子」



「繁栄を極めた蘇我氏ですら、大義なく滅ぼしたのです。そんなバーサーカーが此の国のトップになったら。豪族は粛正の雨あられは避けられませんからね。こうして、斉明天皇がトップになって倭は治まると思われた矢先。朝鮮半島の百済から予期せぬ使者がやって来ます」



「また、百済か。次は何の要求してきたんだ。前は、確か、加耶(かや)を寄越せって行ってきたんだよな」



「今回は些細なことでした。……中国の大国である唐と新羅に攻め込まれ。百済滅んじゃったから。ヘルプ~カントリーってな感じで助けを求めに来たのです」



「些細じゃないよね。これ以上ない国難だよね!」



「倭国内では、百済を見捨てる勢力と見捨てる勢力で二分してましたが」



「二分してないよね。百済見捨てるでフィニッシュしてるじゃん。答え出てるじゃん!」



「倭では大国である唐と敵対することは不味いと。百済を見捨てる方面に動いてましたが、慈愛と慈悲の固まりである中大兄皇子が活を入れます。百済は盟友ぞ。見捨てるとはなんたることか。身命を閉じても助けるべきである。と、この一喝により、倭は百済支援に舵を取り。数多の有力豪族は膨大な兵を引き入れて朝鮮半島へ向かうことになります」



「おお、さすがバーサーカー。大国の唐相手にもひるまねぇとはな。で、勝算はあるのか」



「ありますよ。この戦いで有力豪族が沢山死んでくれると。倭の中央集権化がものすっごくやりやすくなります」



「えっ?」



「また、中大兄皇子が天皇になることに異を唱える有力豪族は最前線に送り込むので。まず生きて帰ってこれません。これぞ、一石二鳥って奴です。やったね、中大兄皇子くん、天皇になれるよ」



「おい、馬鹿やめろ。えっ、なに。つまり、この戦い。中大兄皇子の体の良い粛正だったのか」



「そう言う見解が見られています。そもそも、この戦い。白村江(はくすきのえ、又は、はくそんこう)の戦いって言うのですけど。まず船の質が違います。唐の船が戦艦に例えるなら、倭の船は漁船に過ぎず。船の質では到底勝てません。また、指揮にも大きな隔たりがあります。唐が戦術を駆使して船の陣形を取るのに対し。倭は陣形もなにもなく。目の前の敵を斬れといった。部下に丸投げスタイルです。いくら倭が数を揃えたとしても。体の良い的でしかありませんでした」



「ひっでぇ状況だな」



「唐の戦艦によって。倭の船は次々と燃やされ。火は数珠繋ぎで燃え移り。海面に潜り、少しでも生きながらえようとしますが。息が続かず。浮上すると同時に眼前には膨大な矢が降り立ちます」



「…………」



「倭は歴史的大敗を喫し。倭の救援失敗によって。百済は名実ともに消滅することになります」



「大敗したってことは分かった。で、これから倭はどうすんだよ。唐に逆らったって事は、相応の報復が待ってんだろう。いや、待てよ。まだ、朝鮮半島北部には隋唐の侵攻を防いだ。高句麗(こうくり)がいるから。攻めてこれねぇか」



「いえ。白村江の戦いの数年後に高句麗も滅ぼされてますので、唐と新羅の敵は、倭だけになっちゃいました。倭だけに、わわわ、わーです」



「わわわ、わーじゃないよ。どうすんの。本当にどうすんの」



「唐と新羅の侵攻を想定して。九州の防衛を強化します。まずは、民を強制的に兵に仕立て上げ。防人(さきもり)として赴任させました」



「民を兵にしたんだな」



「また、九州の要地である太宰府を守るため。博多湾から太宰府の通り道に。水城(みずき)と呼ばれる巨大な濠を造り。濠に地下水の水で満たし土塁を作ることで。侵攻を妨げようとしました」



「陸地での侵攻を遅らせようとしたんだな」



「また、水城を迂回して山から来た場合を想定し。大野城(おおのじょう)、基肄城(きいじょう)が築かれ。何処から攻めてきても守れるように。九州に絶対防衛を構築します。まぁ、これらは図で見た方が分かりやすいですね」



「ほうほう」



「九州が突破されたことも想定しており。九州から奈良にかけて朝鮮式山城を構築します。此の時代、現地の食料を略奪して侵攻するのが基本ですから。食料を易々と渡さぬように。集落を土塁や塀で囲み。防衛に特化した造りに変えます。こういった防衛集落を古代山城、又は朝鮮式山城と言いますよ」



「で、あのバーサーカーはどうしたんだ。これだけの騒動を起こして。逃げるとかしねぇよな」




「中大兄皇子は都を滋賀である近江大津宮に移して。最悪、奈良まで攻め込まれたら。東北まで後退し。最後まで戦う姿勢を見せてました」



「首都が落とされても戦う気だったのかよ」



「まぁ、これらは杞憂に終わりましたけどね。高句麗や百済がいた時は、唐に従順だった新羅は、朝鮮半島を統一すると態度が変わり。これからは対等でいこうやないか。ってな感じで、段々と横柄に成り。唐も唐で、新羅を親交国と言うより、植民地的な扱いをしており。互いの関係がこじれにこじれ。一触即発の状況に陥っていました」



「互いの敵がいなくなったら。そうなるか」



「新羅が従わなくなると。唐は、これは教育やな(新羅も滅ぼすか)ってな感じで考えが変わり。中国お得意の遠交近攻(えんこうきんこう)と言う戦術を行います」



「遠交近攻か。確か、遠くの敵国を味方にして。近くの国を落とすやり方だったかな。遠方の国は統治が長く続かないから。近くの国を確実に抑え。徐々に領土を拡大するやり方だったはずだ」



「おお、流石に詳しいですね。そういった感じで。唐は新羅を滅ぼすため。倭に対して融和的になり。白村江の戦いで捕虜になった倭の兵を返還し。倭も遣唐使の派遣を継続することが決まりました。……さて、此処でついにあのバーサーカーが動き始めます」



「遂に、天皇になるか」



「本来なら白村江の戦いで、敗戦責任を取られる立場ですが。その反対勢力も海の藻屑となったので。中大兄皇子は天智(てんじ)天皇として即位します。そして、最初の戸籍とされる庚午年籍(こうごねんじゃく)を作成し。更に、近江令(おうみりょう)と言う法令を作りますが。紛失しているため。内容はよく分かってませんが、恐らく、国民皆、バーサーカーになれと書いていたのでしょう」



「書いてない、書いてない。ぜってぇ書いてねぇ」



「そんなこんなで天智天皇となったバーサーカーですが……改革の最中、山で失踪します」



「失踪だって?」



「暗殺されたと言われてますね。まぁ、天皇になるために、手で収まらない数を暗殺し。白村江の戦いでは、膨大な倭の人々が死にましたからね。此の時代では、大分、恐れられており。また、恨まれていた人物でした。……余談ですが、天智天皇の天智とは数百年後に送られた後世の諡(贈り名)でして。天智の意味は。古代中国、殷王朝に於いて。邪知暴虐と言われた王が握っていた宝玉を意味します」



「数百年後の後世でも悪評は消せなかったんだな」



「今回はこれで終わりにしましょう。次回は、天智天皇の後釜はだぁれ? をお送りします。まったねぇ」

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