第8話 二人だけのメッセージ


本当に狸か何かに化かされているんじゃないか?


 俺はそう思わずにいれてないラブコメ展開に巻き込まれていた。


 ボッチの俺が学校一の美少女の鈴原と二日連続で放課後を過ごし、デートの約束までしてしまった。


 それも、鈴原の方から誘ってくるという形で。


 ……まぁ、この際化かされていてもいか。


 俺が登校してWeb小説を読みながらそんなことを考えていると、誰かが鈴原の名前を呼ぶ声がした。


「鈴原さん、おはよう!」


 どうやら、鈴原が登校してきたらしい。


 鈴原に挨拶する声に引かれて顔を上げると、鈴原は挨拶してきた女子たちに手を振りながら挨拶を返していた。


 どうやら、鈴原さんは今日もみんなの憧れの存在みたいだ。


 ただの友人同士の挨拶のはずなのに、この一瞬を切り取れば青春の一ページにでもなりそうだから、不思議なものだ。


 俺はそんなふうに感心しながら、スマホに視線を戻そうとした。


 しかし、鈴原がちらっとこちらを見た気がして俺の視線は動かせなくなる。


 その瞬間、鈴原は小さな笑みを俺に向けて、下ろしかけていた手を小さく振ってきた。


「おはよ」


 小さく口がそう動いた気がして、俺は慌てて視線をスマホに戻す。


 ……今のって、俺に挨拶したのか?


 ただ挨拶をされただけで跳ねる鼓動を無視しながら、俺はろくに見てもいない画面を落ち着かない素振りでスクロールする。


 お、落ち着け。ただ挨拶されただけだろうが。


 俺が周囲に聞こえないように小さく深呼吸を繰り返していると、スマホにぴこんっとメッセージの通知が届いた。


 反射的にそのメッセージの通知をタップすると、Web小説を読んでいた画面はメッセージの画面へと切り替わる。


『なんで無視するのかな?』


 鈴原をちらっと見ると、鈴原はいつもの女子グループに混じりながらスマホをじっと見ている。


 なるほど、メッセージで弁明せよということか。


 昨日連作先を交換したばかりの鈴原から届いたメッセージを見て、俺は顎に手を置いて返信内容を考える。


 別に、昨日俺ががっついて鈴原に連絡先を交換してもらったのではない。むしろ、逆と言える状況で連絡先を交換されてしまったのだ。


 それと同時に、クラスのメッセージのグループがあったことも知らされたけどな。


 ……うん。まぁ、グループに入っていた所で発言しないし、俺には関係ないだろう。


 それよりも、鈴原のメッセージに返信しないとな。


ぷんすかと可愛らしく怒るスタンプ付きのメッセージを前に、俺は少し考えてからメッセージを返信する。


『無視したつもりはないんだ。ていうか、今のって俺に挨拶したのか?』


 俺がメッセージを送信すると、すぐに既読マークがついてメッセージが返ってきた。


『今度は目の前まで行って、挨拶した方がいいかな?』


『それは勘弁してくれ。クラスの男子に殺されかねない』


 そんなことになったら、俺のことを羨む男子どもに何をされるか分からない。


 山かな? 海かな? という話題でもちきりになるだろう。


 俺は自分の命と鈴原の機嫌を考えてから、指を動かす。


『とはいえ、挨拶を無視したのは良くなかったな。おはよう』


『おはよう、一会先生』


『いや、クラスで先生は勘弁してくれって』


『でも、二人きりだよ? あくまで、メッセージの中ではだけどね』


 天才かと言っている動物のスタンプと共に送られてきたメッセージに、俺は悶絶しそうな感情をぐっと抑える。


『初心な男子の心を弄ばないでくれ。男子にそんなメッセージを送ったら、勘違いされるぞ』


『そうなの? あんまり男の子とメッセージやり取りしないから、よく分からないけど』


 そ、そういうところだぞ。


 学校一の美少女が普段男子とやり取りしないとか、そういうところが初心な男子の心を弄ぶんだぞ。


 そんな女子が俺とだけやり取りをしているという所に、色々と来るものがあるわけで……。


「凛、珍しくずっとスマホいじってるね」


 鈴原と俺がメッセージでやりとりをしていると、鈴原のいるグループの方でそんな声が上がった。


 まずい、メッセージのやり取りをし過ぎたか?


 俺がちらっと鈴原のほうに視線を向けると、鈴原はなんでもないような顔でグループの女子を相手にしていた。


「凛ちゃん、誰かとメッセージのやり取りでもしてるの?」


 別の誰かにそう言われてから、鈴原は人差し指を顎に置いてふふっと小さく笑う。


「んー、秘密」


 鈴原はそう言うと、ちらっと俺を見てその笑みを深めた。


 ……そういうところだぞ。


 俺は胸の中で一人そうツッコんでから、メッセージの画面をそっと閉じた。


 なんだかいけないことをしている気分だ。


 そんな馬鹿みたいなことを考えてしまった俺は、少し悶々とした気持ちを抑えるために、俺はいつものWeb小説サイトを見るのだった。



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