第14話 お父さん
コン コンッ
「入るぞー?」
俺の親父。
しかも当の不知火は親父にあいさつをしたがってモジモジしながらも立ち上がっているし、俺は今からなんて説明しようか頭を抱えて悩んでいたのだが、もう腹をくくるしかないみたいだ。
もちろん親父に彼女を紹介したことは一度もなく、恋愛話すらしたことはない。
―――ガチャ。
「こんばんわー!」
「こ、んばんわ。お邪魔してます!不知火燈叶です。」
「…不知火?」
親父は何故か不知火の名前を聞くと何か思い当たる節があるのか、若干眉をひそめるような表情になった。もしかして不知火の噂の数々は親父も知ってるほどなのだろうか?
「燈叶ちゃんはー、悟のクラスメイトなのかな?」
急に満面の笑みで不知火に話しかける親父だが、一瞬だけ俺の方を見た。顔はニコニコしているものの俺には確信に迫る圧のようなものを感じる。
「じ、実は・・・
「クラスメイトだよ!!!」
「「・・・」」
いや、急に二人ともこっちを真顔で見ないでくれ。怖いなぁ不知火燈叶がクラスメイトなのは事実じゃないか。
俺も会話を割って答えるつもりはなかったのだが、ついとっさに口から出てしまった。
「そうかー!クラスメイトなんだね。悟とお友達になってくれてありがとうね!こいつ高校に行っても中学からの友達一人ぐらいとしかつるんでないみたいでな、まさか新しくできた友達が女の子だったとは驚いたなぁー」
うっ、何をペラペラ息子の友達少ないトークしてるんだ。まるで三者面談をしているような恥ずかしさがある。それよりもっと恥ずかしいかもしれない。
「あはは!そうなんですねー!羽柴くんとはよく仲良くさせてもらってます!」
満面の笑みで語る不知火燈叶。
いや、まともに絡んだのはついこの前だからな?あーあ、なんか親父もまんざらでもないような顔しちゃってさ。クラスメイトの前でデレデレするな恥ずかしいっ!
・・・初対面の親父と打ち解けるのはやすぎやせんか?ギャルの特殊能力か何かだろうか。
そ・れ・に・!不知火燈叶はそんなキャラじゃないだろっ!!喋り方も表情も余所行きじゃねぇか。知ってる人が見たら完全に別人だぞ。
まったく一体何を企んでやがる、頼むからあのことだけは親父に言わないでくれよな。
「早速で悪いんだけどちょっと君たち下まで来てもらえるかな?」
「えっ?まぁいいけど」
「はい!お父さん」
おい、お父さんって呼ぶな。
なんだ?夕飯でも不知火燈叶と食べようというのだろうか。うなじをポリポリかく親父はそそくさと部屋をでて階段へ向かった行った。…イテテ、そういえば腰を誰かさんにやられてたんだった。
親父、俺、不知火の三人で一階のリビングに向かう。
ん?リビングになにやら人影が。
「悟」
「ん?」
「突然のことになって申し訳ないが、紹介したい人がいるんだ」
「え?」
親父に真剣な声のトーンで言われ目の前に現れたのは、小麦色をした髪のきれいな大人の女性だった。
自分たちが来た瞬間スッと立ち上がると吸い寄せられるかのように親父の横に立った。親父もその女性が隣にくると腰に手を回し見つめあっている。
そして女性は少し戸惑った様子で親父と俺を交互に見てきた。
「・・・っ」
まじか、そういうこと…だよな?
俺にお母さんがいないのは物心つく前に家を出て行ってしまったと親父から聞いている。顔も思い出せないような記憶だが別れの際には悲しんでいたとも聞いているがとおの昔に親父と二人家族の現状を受け入れていて、これからもそういうものなのだと勝手に思っていた。
けど、おそらく目の前で並んでいる親父とこの人はそういうことなんだ。俺が幼かったら理解できなかったかもしれないが今は言われなくてもすぐにわかった。
親父はこの女性の方とお付き合いをしているんだ。
目の前の親父はその人を前にして俺には見せたこともない顔をしている。いつもおちゃらけたような雰囲気の親父だが、今の親父は頬を赤らめ少し緊張しているみたいだ。それほど本気だというのが伝わってくる。
「悟? えっと、紹介するよ。こちら
親父は照れくさそうにその女性を紹介してくれた。ニヤニヤしながら片手で自身のうなじをポリポリとかいている。
てっきり残業とやらでビジネスホテルに寝泊まりでもしてるのかと思っていたが、そういうことだったのか。
名前を紹介された不知火さんは綺麗にそして深々とお辞儀をする姿はとても美しい。スタイルも良く立ち振る舞いからまさに大和撫子のような女性だ。それに見た目もかなり若い。
飲み屋でしかもこんな美人さんならさぞモテまくりだろうに、まさか親父にこんな一面があるとは思わなかったな。
「はじめまして、悟くん」
「は、はじめまして…」
こういうとき俺はどう反応していいのかわからなかったので、少し気まずい。
「あっくん!!もしかして悟くんに今まで何も話してなかったのー??」
「いやぁ///話すタイミングが中々なくてな~ハハハッ」
「・・・」
照れながらも親父に体をぴったりとくっつける不知火さんにデレデレと鼻の下を伸ばした親父。不知火さんは話し方からもかなりおっとりしている。
まったく一体何を見せられているんだ、親のいちゃいちゃを見るのってこんなに苦痛だったとは。
それにもう一つ俺は気になることがあった・・・
「…ママ?」
俺の後ろにいる不知火燈叶から小さくそう聞こえたが、もはや俺は驚きすらしない。むしろ心の中の疑問が晴れてスッキリしている。
「まぁ流れ的にそうなっちゃうよな…」
最恐カノジョは愛も強い。 菓子月 @K_4zk
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