第10話 目的

―――現在。


 不知火燈叶が突然家に来てから今の俺は、、、なぜか自宅の玄関で正座をさせられていた。少ししか時間はたってないのだが、床で正座ってこんなにしんどいものなのかと剣道部でシャキッと正座をしていたてっちゃんを思い出す。


「汚い汚い汚いっ!!」


 目を細めて煙たがるように連呼してくる。うわぁと心の声も聞こえてきそうな表情までされてしまった。


「そんな三回も言わなくても。…せめて来るなら事前に言ってくれればよかったのに」


「そう言う問題じゃないっ!」


「すみません」


 ひょっとして不知火燈叶は意外と綺麗好きなのだろうか?目的である俺のイメージダウンでフラれよう作戦は狙っていないがうまくいっている気がする。


 俺の目の前にいるご立腹な顔をした不知火燈叶が言うには我が家はどうやら汚れているらしい。それも玄関を見ただけで気づいたとか。確かにごみ袋が数個はあるが…すべていつか捨てようと思って置いていたやつだ。


 親父と男二人で住んでるからか少々散らかっていてもお互いに気になったことはない。そのうえコンビニのものばかり食べているのでゴミはすぐに溜まってしまうのだ。


 中学の頃はよくてっちゃんが遊びに来てくれたので、その都度掃除をしていたのだが学年が上がるにつれ遊びに来る頻度も掃除をする頻度も減ってしまった。


 汚いと注意されてしまったが、不知火燈叶のメガネマジックのお陰か、はたまた目つきが悪かった理由が単に視力が低いとわかったからなのか。いつもより怖さが欠けて見える。


「よし。急遽予定変更だ、まずは掃除からするぞ」


「えっ、俺を?」


「何をバカなこと言ってるんだ!家の掃除から始めると言ったんだ」


「マジかよ…」


 いきなり同級生の家に来て掃除を始めるのもなかなかじゃないか?しかも自ら掃除したいとかよほど綺麗好きなのだろうか。多少他人の家が汚いと思っても普通は口にすら出さないだろう。


 家での不知火燈叶を知らないがそういうことに関してあまり気にならないタイプだと勝手に思っていたから驚きだ。もしかすると妹がいるみたいだから結構世話焼きなのかもしれない。


「わかったよ。ってかそもそも予定変更って何かをするつもりで来たのか?」


「・・・っ///」


「…えっ??」


 急に黙ったかと思うと不知火燈叶の頬はみるみる真っ赤に染め上がりこちらに向ける目つきはかなり鋭くなっていた。そしてなぜか若干息まで荒げ興奮しているようでかなり怖い…そんなにヤバいことでもするつもりだったのだろうか?学校の噂通りなら何をされるか考えるだけで悪寒が走る。


「・・・ッ」


「ん?」


「あいさつッ!!!」


「はいッ!こんばんわ!!!」


「うん。こんばんわ。って違う!!!」


「つい条件反射で返事をしてしまったが違うのか?」


「だ、だから親にあいさつに来たんだってば///」


「ああー!そういう事ね。って、ええええ!?親父に?」


 顔を赤らめながらコクンとうなずく不知火燈叶。


 おいおい、マジか。確かに先ほど帰宅中にそんな会話をしたような気もしたが…流石に行動力バケモノすぎじゃないか?


 しかし目の前にいるのは普段学校で我々が目にしている不良の不知火とは容姿が異なる。認めたくないが正直言って俺は今、不知火燈叶にドキドキしてしまっている。そしてラノベを愛する俺は今までの行動から不知火の態度がどのようなものにあたるかを知っていた。


 おそらく「ツンデレ」というやつだ。


 はぁ。なんだこのすぐ顔を赤らめ悶える可愛い生き物は、、、いつもなら触れるな危険ってオーラがはたから見てもプンプンするのだが、今はいっそ抱きしめてやりたいというか守ってやりたいというか。


 そんな不知火燈叶は現在俺の彼女になってしまったわけで、でも俺には片思い中の須本さんもいて何か胸の中がモヤモヤする。


「え、えっと不知火さんはなんて親父に挨拶するつもりだったの?」


「何ってそりゃぁ、結婚を前提にお付き合いさせていただきますでしょ?///」


 ん??


「今なんて…」


「とりあえず邪魔するぞ、」


「あ、ああ!悪いずっと玄関で」


 恥ずかしさに耐え切れなくなったのか不知火燈叶が靴を脱ぎ丁寧にそろえ、リビングにズカズカとあがってくる。やけにきょろきょろしているのは、汚部屋認定されたからか緊張しているのかわからない。その後ろを正座でしびれた足を引きずりながらついていく。


「うっ汚いっ!汚い!」


 …流石に傷つくぞ?


「コンビニ袋とカップ麺のゴミばっかりじゃないか、そういえば夕飯はもう食べたのか?」


 不安そうな表情と声音で心配してくれているのがわかった。


「いや、ちょうどこれから食べようと思っていたところだけど…」


「もしかしてそのカップ焼きそばを?」


 不知火燈叶が見つけて指さしたテーブルには先ほど夕飯に食べようと作っておいたカップ焼きそばがある。不満そうにこちらを見てくるので軽くうなずいた。


「これではダメだ、全然栄養がないじゃないか。少し片付けたらアタシが夕飯を作ってやろう。…か、彼氏に体を壊されては困るからな///」


 最後の方かなりの小声だったが、流石に静かなリビングではしっかりと聞こえた。自分で言ったくせに頬を赤らめる不知火燈叶。


 もちろん俺を人間サンドバッグにするから丈夫な体じゃないと困る。という意味でないのは俺でもわかる。


 …どうしよう超可愛い。なぜだ!もはや学校にいる時の不知火燈叶とは見た目も性格も180度違うぞ。二重人格者か何かなのか!?思春期男子高校生の心はグラグラだ。


「冷蔵庫借りてもいいか?」


「不知火さん作ってくれるの?好きに使って」


 まさか、彼女が手料理を俺に作ってくれるというアチーブメンを獲得できるのか!


 うちの冷蔵庫を開けてフリーズする不知火燈叶。

 

「何も入ってねーな」


 ―――アチーブメン獲得はできなかった。

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