第9話 来訪者
「ただいまー」
あの後、不知火燈叶と別れて家に帰宅した。家には誰もいない。
親父が帰ってくるのは深夜かもしくは一日帰宅しない事も多々ある。ずいぶんと長くその生活が続いていいるので、もう慣れてしまっているから気にした事はない。しかし最近は特に仕事が忙しいのか帰りが遅くて顔を合わせない日もあったりする。
先ほど不知火燈叶に気にされたように俺は一人だと実は寂しいのかとふと考えてみるが、それなりに心も体も成長した俺はアニメや借りてきたラノベを読んでいれば忘れてしまうことだろう。
「あっ、夕飯買うの忘れてた…」
不知火燈叶にいつものコンビニで夕飯を買って帰るというルーチンを崩されてしまったからだ。結果論ではあるが、そもそも帰り道が同じ方向の時点で夕飯を買いに行くからと少しでも遠回りして別れれば家もバレなかったかもしれないし夕飯も買い忘れることはなかったかもしれない。
「よし。久々に料理でもするかな!」
と言いつつ俺は迷わずキッチンのそばに置いてある段ボールからカップ焼きそばを手に取った。
断言しよう。俺は料理ができない!というか今後もしたくないしする気もない!!
ただ、作り終えた焼きそばに生卵やチーズを入れたりと一手間を加えるのは好きなのでこれはちょっととしたアレンジ料理と言っても過言ではないんじゃないか、、、たぶんね。
もちろん料理をしようと試みた事もあったのだが、一人分を作るのは大変で帰宅時間にばらつきがある親父の分にするにも面倒くさかったのでとうの昔に諦めた。
その他に正直なところ自分で作った料理はどれも並みぐらいで手間暇を考えると部活もしていない小食インドア派の俺は基本的にカップ麺や菓子パンなどで落ち着いてしまったのだ。
親父と二人暮らしで一軒家、今はほぼお湯を注いでいるだけのこの広めのキッチンも、幼い頃母により大活躍していたなんて話は聞いたことがあるも想像はつかない。
因みに月のお小遣いは高校生にして破格の三万円!!高校生にしてはかなりの高額だ。親父が家にいれず申し訳なく思っているのか、お金さえ渡しておけば何とかなると思っているのかはわからないがとても助かる。
基本的に自炊をしないので大体は昼と夕飯のコンビニ飯に消えてしまうが、よく朝や夜は親父が食べ物買ってきてくれたりするし、おまけに自分でも節約すればオタ活に使えるお金もまかなえる。
親父がいくら稼いでいるかはわからないが、もし負担になっているのであればそろそろバイトを始めようか考えなければいけない。
学校はよほどの理由がなければバイトを禁止しているが、この家庭事情を持ち込めば一発OKなのでバイトを始めるにはきっと大丈夫だろう。はっきり言われたことはないのだが親父の雰囲気的にあまりバイトなどはしてほしくないと思っているみたいだったので今の今まで甘えてしまっている。
「さっさと食べて、借りてきたラノベでも読み漁るとするか。」
―――ピンポーン!
「あれ?こんな時間に誰だ??さては宗教勧誘か、、、無視だな」
ピンポン!ピンポン!ピンポン!
なんてしつこさだ。こういうのは出たら負けだ、居留守をして過ごs…
ドンドン!
「羽柴ー!!いるのはわかってるんだ!!」
ドンドン!!
「えっ取り立て!?もしかして親父に借金でもあるのか!?」
…という冗談はさておき。めちゃくちゃ最近聞き覚えしかない声にため息がでてしまう。
「はぁ、」
ガチャ
「まさかいつでも行けるって言ってたけど今日だとは思わなかったよ、不知火さん」
これ以上無視し続けるとご近所の迷惑になりかねないので開けてやることにしたのだが―――
「あっやっぱりいるんじゃん羽柴!…って、ん?どうかしたのか?」
今目の前に現れた不知火燈叶はメガネをかけていた。
「し、不知火さんってメガネだったんですね、、、」
「ん、まぁな。普段は邪魔で裸眼なんだけど」
とクイクイ人差し指でメガネの横を持ち上げて見せた。
いやいやいや、それだけではない!!一体どういうことだ、、、あの目つきが鋭い不良の不知火燈叶の表情は和らぎ今は普通に可愛いく見えるような!?
…もしかしてだけど、普段から睨みつけるような目つきは視力が悪かっただけだったのか??
「ねぇ」
普段より不知火の両目がパッチリと開かれていて、若干のお姉さんらしさもある。…これメガネマジック??不良ギャルの癖にメガネ映えするのかよ。
なんせメガネっ子である須本白奈さんを好きな俺がドキリとしてしまうほどにメガネ×不知火燈叶はとても似合っていた。
いつもの金髪プリンヘアーもシャワーを浴びた後なのか艶やかで綺麗に整っている。それに不知火からほんのり柑橘系のいい匂いもしてきた。
ちなみに服装は大きめの白Tシャツと短めのホットパンツ。下手したら先ほどのスカートよりも生足が強調されいるため凶器的。やっぱりめっちゃ服装がギャルだな…ギャルの普段着あまり知らんけど。
上の白Tシャツには…なんだ?よく見たら胸元に大きくプリントされているちょいブサイクな猫、、、よれよれの文字で横で「にゃーん」と書かれていた。にゃーんて。
下手をすると顔だけなら校内一の美少女と張り合えるレベルだぞこれ…普段はボサボサの髪で少し顔が覆われている上にとてつもなく悪いイメージがあるから、目を合わせられず全く気づけていなかった。
―――不知火燈叶は間違えなく美少女だ。
「ねぇってば!…あまりジロジロ見るなよ。なんかおかしいところでもあるのか?」
バツが悪そうに不知火燈叶は自分の髪を指でくるくるといじりながら質問をしてくる。
「…全部おかしいよ」
「はぁぁぁぁ"!?」
そして俺もおかしいんだ。さっきから胸の鼓動が早い―――
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