第8話 通学路
・・・どうしよう、今更だが不知火燈叶と二人きりで下校していると思うと緊張してきた。思春期男子特有のドキドキかそれとも恐怖心か半々かもしれない。今のところ女友達もおらず、異性と二人っきりで下校するというイベントも初めてなのだ。
初めての下校イベントは不知火燈叶と…か。
今こうして不知火燈叶の隣を歩いてみるとわかることがある。不知火はよく見るとかなりスタイルがいい。身長172センチである俺より少し低いぐらいなのだがスラリと足は長く腰の位置は一緒ぐらいなのだ。もしかすると俺の足が短いだけなのかもしれないが…悲し。
その上スカートを短くしている為すらりと伸びる生足はかなり魅力的。俺は二次元ヲタクではあるがもちろん三次元の女性にも興味はある!思春期真っただ中の高校男子にはなかなか刺激。不知火の足だけは評価してやろう。
「…やっぱり見てる」
「ごめんなさいっ!!」
逆鱗に触れないよう食い気味で謝る。確か男性がおくる女性へのスケベな視線やチラ見って実はバレバレだと誰かが言っていたのを思い出した。男性陣の皆さん気を付けましょう。
数十分してから俺は最寄り駅前の十字路で足を止めた。カップルにしては特に実のない下校だったが俺にとって色んな意味で貴重な体験ができたと思う。
「じゃあそろそろ着くからこの辺で」
「ん?もしかして家ここらへんなのか?」
…うーんナチュラルに住所特定してくる感じ?恐ろしい女だぜ。
「ま、まぁね、線路沿いらへんかな?」
とふんわり濁して別れようとするも―――、
「そうなのか!アタシもだ」
なんですと!?…でも線路沿いなんていくらでも続いてるものだからしかたがない。
「奇遇っすね…まぁいったん今日はこの辺で!」
軽く挨拶をしてこのショートカットの細道は流石にかぶらないだろうと再び歩き始めたのだが、とてもとても嫌な予感がしている。
っすうううう――
そして深く深呼吸をして振り返った。
「…えっと不知火さんも家こっちの方なんすか??」
「ん、ああ。というかあそこだ」
不知火燈叶は真顔でさも当たり前だとでも言うように自分の家があるであろう方向を指さした。そして俺はその指さした方向を見て驚愕。
「…えっお向かいさんじゃん」
それも毎朝玄関を開けたら線路向かいに見えるマンション?いや団地といった方が正しいだろう、めちゃくちゃ近いぞこれ。
「おお!本当か??羽柴の家はどれだ??」
と不知火燈叶はキョロキョロとまるで宝物を探す少年のように目を輝かさせている。
「…あの一軒家だよ」
もうここまでくると渋々答えざるを得ないだろう。
「おっアレか!!近いな!それに大きい!こんな真向かいだったとは気づかなかったぞ!」
ぱぁっと不知火燈叶の顔が明るくなるのがわかる。人の家を特定してテンションが上がるなんてどうかしてるんじゃないか?いつもの機嫌悪そうにしてるよりはマシだけど。普段とはだいぶキャラが違う。
「…後でご両親にもごあいさつしに行かないといけないな」
「いやいやそれは普通コッチのセリフだろ!…ぁ」
…やっべ、ついツッコんでしまった…恐る恐る不知火燈叶の顔をうかがう。
「あはははっそれもそうか!でもいつでも家に行けるってわかったし最高だな」
「いつでも…?一体何が最高なんだか、」
「ところで羽柴の両親はもう帰ってるのか?」
「うーん、まだ帰ってこないかな。厳密に言うと母さんは幼いころに家を出て行ったっきりで今は父と二人きりだけど仕事の残業ばっかりで帰りは遅いんだ。多分今日も遅くに帰宅すると思う」
「・・・」
…って、つい喋りすぎた。そうだよな俺自身別に気にしていないとはいえこの手の話をすると大体聞いた人は重くとらえてしまうのを何度も経験している。
案の定、不知火の表情がくもっている。
「えっとー、不知火さん?別に気にしなくていいからね?母さんについては物心つく前に家を出ていってるからほとんど記憶にないし、親父も最近はどうやら遊び歩いて帰りが遅くなってるみたいだしさ」
「…いや、」
不知火燈叶はどうやら何かを言い淀んでいる様子だった。
「…驚いたな。実は言うとアタシもなんだ。羽柴とは逆にパパがいなくて。ママは仕事柄朝帰ってくることの方が多い。けどアタシには大好きな妹がいるからこっちも全然寂しくはない」
「…そうなんだ」
まさか家どころか境遇まで近いとは…この返信は予想外なもので、気にしてないとはいえやっぱり内容的にも落ち着いてしまう。不知火に妹がいるとは思わなかったな、あとパパママ呼びなのか…
「羽柴!これからは寂しくなったらいつでも家に来ていいからな!!」
不知火燈叶はドヤ顔で俺にそう言い放った。手は握り拳までつくっている。
「いや、大丈夫です」
「ああ"??」
「ごめんなさい、ご心配ありがとうございます!!」
ひぃ!!完全に調子に乗りすぎた、忘れてはいけない隣にいる奴は痴漢男の利き手の指を小指以外全部へし折った女だぞ。ちなみにこれも不知火燈叶の噂の一つだ。
「っぷははは」
なにっ!?不知火が笑っている…だとッ!!学校ではきっと誰も見たことがないであろう光景だった。
何がそんなに面白かったのか不知火燈叶はツボってしまったみたいで俺の隣でケラケラと笑っている。
学校一の不良少女と地味な高校生男子が歩く帰り道、一見知る人が見れば罰ゲームにも見えることだろう。けど今俺は、なんとなく心地がいいと思ってしまっている。
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