第7話 幼馴染

 緊急事態発生!緊急事態発生!


「えっと、つまり須本さんと不知火さんは幼なじみってことでいいんだよね?」


「うんそうだよ、燈叶ちゃんには前から何かあったら相談してって言ってたのにひどいよ!でもまさかあの燈叶ちゃんにいきなり彼氏ができるとはねー。それも羽柴くんかぁ~へぇ~」


 須本さんの口調は完全に女子同士で会話をするときの雰囲気だ。なんというか普段よりテンションが高い。不知火燈叶と俺を交互に口角をあげてニヤニヤと見てくる。そんな小悪魔的な表情すらも可愛らしく思う。


「な、なんだよ彼氏を作ろうがアタシのかってだろ?あとちゃん付けはハズイってば。…でも悪かった、白奈が気を使ってそっとしておいてくれたのはわかってたしアタシにも色々あったんだ」


 幼なじみの前だと話しやすいのか、照れたりしょんぼりしたり不知火燈叶の感情の変化がいつもよりわかりやすい。間近で幼なじみ女子トークをくり広げられているのを見ていると俺は蚊帳の外にいるような感じがした。


「ううんいいの、またこうして話せたからね。またこれからも困った事や相談事があったらいつでも頼ってね。幼なじみなんだしさ」


 須本さんも俺が見たこともない優しい笑顔でニコニコとほほ笑んでいる。


 なんてことだ、、、きっとなにか訳があって少し距離があいてしまった幼なじみとの仲をとり繋いだと思えばとてもいい光景なのだが、これは俺にとってかなり分が悪い。


 なぜなら恐れていた事の一つ、俺と不知火燈叶が付き合っているという事実を須本さん本人にしっかりとバレてしまったからだ。厳密にはバレていたというところか。


 まさか、対照的な二人にこんな接点があったなんて聞いてないぞ、これじゃあ不知火と別れたとしても不知火と仲がいい須本さんに告白するのはとてもハードルが高い。乗り換え最低クソ野郎とみられて玉砕まっしぐら確定だよもう。


「ふふっ改めて羽柴くんもよろしくね」


「うん、よろしく」


 少し顔をかしげながらやわらかい笑顔をこちらに向けてくる。っくぅうう、須本さん可愛すぎる!末永くよろしくおねがいしまーーす!!


 痛っ!!今度は不知火に二の腕をつねられた、脇腹に加え痣がもう一つ増えてしまった、痛ってぇ。


「燈叶ちゃんは不器用だけど本当はすごくいい子だからね!二人の馴れ初めとかじっくりと聞きたいんだけど、ここじゃああれだからまた今度聞かせてね?」


 幼なじみ公認いただきました!、、、って全然嬉しくない。むしろ事態は最悪だ。


 なんなら今ここで馴れ初めお教えしましょうか?あなたに告白しようとしたら間違えて不知火燈叶に告白してしまい何故かお付き合いしている状況ですって。


 もちろんそんなことを言う勇気は無く…


「あと!羽柴君は絶対に燈叶ちゃんを悲しませたら絶対にだめだからね!」


「あ、はい。」


 華奢な腰に手を当てて、可愛く人差し指を俺に見せてきた須本さんが可愛すぎる件について。柴犬君と呼ばれても一切悪い気がしない。むしろご褒美?なんつって。


 しかし、こうして釘まで刺されてはうなずく事しかできない。このやり取りを見てる不知火燈叶は何も言わなかった。


「じゃあそろそろ、俺は帰ります」

 

 これ以上は情報過多。気持ちの整理もしたいし、目立つ不知火とカウンターでお喋りだなんて図書室のみんなにも迷惑だ。すでに痛いほど図書室内の生徒から視線を感じているが、声の大きさには三人とも気を付けていたので会話の内容は聞かれていないと思う。


「ん、じゃあアタシも」


 隣で不知火燈叶は床に置いていたスクールバッグをノリノリで肩にかけている。俺は一人でとっとと帰りたいんだけどなぁ。


「そうだね、お二人のお邪魔しちゃ悪いよね!またね!」


そういってにこやかに手を振る須本さんの笑顔が今はとても心に染みる。うう、これからどうしよう。


「あっそうだ白奈。この事は内緒にしてくれないか、もちろん恥ずかしいってのもあるけど、ほらアタシってよく目立つだろ?それで変な噂がたったりして羽柴にも迷惑がかかったら嫌なんだ」


 照れくさそうに言う不知火だったが、俺は須本さんの眉が一瞬ピクっと動いたのを見逃さなかった。


 これは絶対俺と同じこと考えてるよな。


 …もう既に変な噂がたっているぞと。不知火燈叶の前では俺を羽柴と呼ぶ当たり、気を使っているみたいだ。逆に周りの雰囲気に気づかない不知火燈叶が鈍感すぎる。それでも流石に自分が学校で目立っていることや色々噂されていることは自覚していたようだ。


「うん!わかった」


 わぁ、眩しい作り笑顔!


 夕暮れ校門前——


「羽柴、帰りはどっちの方向なんだ?」


 不知火燈叶はどうにかして俺と帰りたいようだ。


「俺は駅の方かな」


 もし帰り道が反対だったとしても送らないからな?


「じゃあ同じだな!行くぞ」


 っく。いきなり分かれ道の二択外してしまったか。


 しぶしぶ一緒に帰り道を歩くことになったのだが会話はない。早く帰ることしか頭にない俺からは話しかけないし、不知火燈叶も特に話かけては来ない。なんならもう俺は今帰ったら何を食べようか考えているところだ。


 んー、よし決めた!最近ハマっているコンビニのナポリタンと肉チキにしよう、今日は疲れたしご褒美のデザートにアイスとプリンもつけちゃおうかな!


 なんて考えながらふと横を見ると険しい表情の不知火さんが俺に一生懸命歩幅を合わせて隣を歩いていた。どうやら俺は無意識のうちに歩くスピードが速くなってしまってたようだ。


 そういえば、金髪で目つき悪いし学校で悪い噂が立ちまくり、おまけにその辺の厳つい男子生徒よりも怖く一言も喋らないこの不良も今時の女子高校生(JK)。


 俺も彼女と一緒に下校している。とだけ思えば響きはいい。


 先ほどの不知火の燈叶と須本さんが会話してる和やかな雰囲気を見てからはほんの少しだけ不知火に対しての恐怖心が薄れた気がする。ああ、ちゃんとお年頃の女子だったんだ。


「…なにジロジロ見てるの?」


 おっと気のせいでした、前言撤回やっぱまだまだ怖い!仮にもそんな怖い顔して彼女が彼氏に言うことかね。


「悪かったよ、考え事しててさ。なんとなくそっちを見てただけだ」


「あっそう、別に見てもいいけど」


 …いいのかよ。


 ぶっきらぼうな言葉遣いとは裏腹に不知火燈叶の表情がゆっくりと和らいだ。今日放課後を共にして俺も人のことを言えるたちではないが、不知火燈叶はコミュ症ってやつなのではないか?だとしたらなんで俺と…


 須本さんが不知火燈叶は不器用だと言っていたがこういう所だろうか?


 それにしても、不知火燈叶を通してではあるが須本さんと結構会話ができたな。むしろ先に話しかけてくれたのは須本さんの方だ。それだけでも今日はいい日だったと思える。


 特に先ほどの「~にだめだからね!」のところは「めっ!」と声が聞こえてきそうなくらい可愛かったなー俺の脳内フォルダに保存しよう。 

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