第6話 図書室

 図書室に着くと貸し出しカウンターに座っている須本白奈さんがとても穏やかな表情で本を読んでいた。


 長く艶やかな黒髪を耳にかけ、メガネの位置を人差し指でくいっと整える仕草はまさに清楚系女子そのものだ。そして見逃しはしない、たわわなお胸をカウンターテーブルに乗せている事も。ああ、テーブルが羨ましい。


 本来ならそんな須本さんに俺が告白して一緒に放課後は図書室もしくは本屋さんデートでもしてキャッキャウフフしているはずだったはずなのに、実際に隣にいるのは真逆の不良女だ。


「いたたっ!??」


 えっ急に不知火が横に立ち脇腹をつねってきた。


「急になに!?痛いんだけど!!」


 不知火の顔をうかがうとちょっとムッとしている。


「いや、何となく、、、」


 何となくで脇腹をつねるって意味わからん!つねる力が強すぎてお腹の肉ちぎり取られたかと思った。いたた。


「羽柴、ここ凄い静かだな、、、」


 当たり前だ図書室なんだから。勉強熱心な生徒が課題を進めていたり、読書好きの静かな生徒がそこそこの人数がいる。俺も読むのはライトノベルだがここの放課後オアシスを利用させていただいてる常連だ。絶対に迷惑はかけたくない。


 逆にお前は何をしについて来たんだ?なんて言えるわけもなく、


「本を読んだり勉強に集中したい人が来ているからね、今日は静かに借りて帰ることにするよ。不知火さんはここで適当に本でも見ててくれ」


「ん、わかった」


 会話の声が大きかったのか不知火燈叶がここにいるのが珍しいのか、図書室に入ってから凄い注目を浴びている。もちろん悪目立ちのほうでね。流石は学校一の不良女、静かな図書館は似合わない。俺自身も居心地がよろしくないので足早に目的であるライトノベルコーナーに向かう。


 迷わず手に取ったのは「僕は友達が少ない」通称はがないである。最近また読み返したら止まらなくなってしまった。本当に大好きな作品で俺の青春の一部と言っても過言ではない、何より初めて読んだときの…っとこの辺にしておこう。そもそもラノベを図書室に置くという提案をした神様が誰なのかも気になるな。


 とりあえず要約すると青春ラブコメが大好きなみんなには是非読んでもらいたい作品です!さて、さっそく貸出カウンターに向かおう!


 ふと不知火を横目で見ると、図書委員のおすすめの本コーナーをおとなしく見回っていた。


「お願いします」


 須本さんが図書室当番の日はなるべく表紙のキャラが萌え萌えしてないものを選択する。これに関しては説明するだけ野暮だろう。


「はいどうぞ」


 にこやかに渡されたのは俺の貸出カードとボールペン、スムーズなこの手続き…間違えない。


 須本白奈は俺の事が好きにちがいない!!


 そして俺も須本さんが好きだ!脈はある、付き合いたい。と心の中で毎回舞い上がるのだが実際同じクラスの常連だし。それでもきっと好感度は少しずつ上がっているだろう。


 とか考えてると、カウンターから前屈みで須本さんが話しかけてきた。


「ねぇねぇ、柴犬君って不知火さんとどういう関係なの?あっごめんね、周りのみんなも柴犬って言ってるし可愛いからシバイヌって呼んでもいい?」


「…別にいいよ、」


 わっ、急に話しかけれれてドキドキする!!チラッと見ただけでも可愛すぎて直視できない!


 シバイヌって言い方可愛い。大半は俺の事シバケンって呼んでるけどな。それよりも話しかけられたことに驚いた、実は言うと図書関連以外でプライベートの事に関して話しかけられたのは悲しい事にこれが初めてだったからだ。近寄って来た時にはふわっと甘くてやさしいいい匂いがした。


「やったーありがとう、今日一日中柴犬君と燈叶ちゃんの噂で持ち切りだったから気になっちゃって。燈叶ちゃんが柴犬君を舎弟にして連れまわしてるって噂が多かったけど、実際燈叶ちゃんの性格的にそれはないんじゃないかなって思ったから聞いてみたかったんだよね」


「不知火さんとどういう関係といわれましても…」


 って?ん?燈叶ちゃん!?どういうことだ、性格的に?これはまるで不知火燈叶を以前から知っているような口ぶり、、、


「おい、白奈。なにアタシの男をたぶらかしてるんだ?」


「不知火さんっ!?」

「燈叶ちゃん!」


 ズイッと俺の右腕に密着するように立つ不知火燈叶。いきなり強引に体を押し当ててくるので体制が崩れそうなった。…体感鍛えとこ。


「ちょっ、不知火さん近いって」


「あっごめん」


 ついぶっきらぼうにいうと不知火燈叶の体が跳ねるように離れた。表情は少しだけ申し訳なさそうな顔をしている。


 一瞬だが不知火燈叶が密着していた部分は以外にもすべてが柔らかく、これにはさすがの俺も異性を感じざるをえなかった。ちなみに密着した不知火燈叶からは柑橘系のフレッシュな香りがした。汗の匂いなんてまったくしないじゃないか、


「あ、燈叶ちゃん!私はわかってるよ?二人とも実は…付き合ってるんでしょ??」


 いつもの優しい微笑みを浮かべながら小声で聞いてくる。


・・・


「ふふっ、びっくりしてるみたいだね柴犬君。実は私と燈叶ちゃんは小さい頃からの幼なじみなんだよ。最近は燈叶ちゃん全然学校にも来てくれないし、会話もなかったから心配してだんだけどね。今日の燈叶ちゃん見てたらすぐに分かっちゃった!」


 目を輝かせた須本白奈さんが俺達を交互に見てくる。


「流石に白奈にはお見通しってわけか。あと高校生にもなるんだからちゃん付けはハズイって前に言ったろ?」


 はぁ、とため息をつく不知火燈叶。


 ・・・


 な、なななんだってえええええええええ!!??


 と俺はド定番の驚き文句を叫けびちらかした。


 もちろん心の中で。

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