第3話 挨拶

 翌日。


 結局昨日の出来事でまともな睡眠がとれなかった、寝れたと思ったら夢にまで不知火燈叶が出てくるしマジで勘弁してくれ。


 ただ一つ、俺も一晩中苦しんでいたわけではない!また一つ新たな作戦を企てていたのだ。


 作戦その二!(一は速攻で失敗に終わったが)徹底的にクズムーブをかましてさっさと別れよう大作戦だ。不知火燈叶を相手に自分から告白しといて自分から振るというのは中々にハードルが高い、もしかしたらあの不知火燈叶だ。下手したら命に係わるかもしれない。ならいっそ自然に嫌な奴ムーブをすれば不知火の方から愛想をつかしてくれるだろう。


 そしてその後本命の須本白奈さんに告る!!


 ちょっとタイミング的にはアレだが、事故みたいなものだしまぁいいだろう。 

 

 とりあえず今はラノベを読みながら朝のHR(ホームルーム)を待っている、睡眠不足のせいか中々読書に集中できない。


 ガラッ  ザワザワ…


 目はラノベに向いているものの何となく教室の雰囲気が変わったことを感じ、担任の先生でも来たのかと思い顔を上げると――、


 不知火燈叶が教室のドアを開けたのだった。


 おーまいがー…出てくるのはせめて夢の中だけであってほしかった。周りも不知火燈叶が朝から登校しているという驚きと。そしてこれから何かが起きそうな雰囲気に先ほどまで雑談などでざわついていた教室内は静まり返る。


・・・


 俺も周りも不知火燈火に注目している。


 教室に一人クラスメイトが登校しただけでみんなのこの反応。当たり前だ、悪い意味で彼女を知らない生徒や職員は一人もいない。


そもそも不登校気味の彼女が教室に来ている事、ましてや八時四十分のHRに間に合う時間帯に来ているなんて前代未聞なのだ。


 不知火燈叶の容姿は鎖骨ぐらいまで伸びたミディアムヘアの金髪でつむじの生え際から黒い地毛が伸びている。俗に言うプリンのようなヘアスタイル。両耳にはピアス、俺には意味の分からない柄のネイルにスカートも短くしており校則違反の塊。


 それだけではない。彼女にはもの凄いオーラあるのだ。もちろん芸能人やアイドルなどの可愛い系ではなく、言葉にするには難しいが圧があるというか、野生的というか本能で強いと言わせるような感じだ。あと噂通りとても態度が悪い。


 新学期早々、コミュ力モンスターたちが興味本位で不知火燈叶に話しかけるも全員フルシカト。挙句の果てにひと睨み効かせて蹴散らしていた。その中にどうやら校内一の美少女もいたらしくあっという間に噂が広がりクラス内、もしかしたら他のクラスまでもを敵に回していたのを覚えている。


「嫌な予感がする…」


 不知火は誰かを探しているような素振りをしてから、俺と目が合うと、獲物を捕らえるようにゆっくりと迫ってくる。俺は何故か目線をそらすことができない。


 はぁ、思い当たる節しかなくて困ったもんだ。


 俺の机の前で止まると更にジッと見つめぼそりとつぶやいた。


「…おはよう」


 顔色一つ変えずに俺に言う。


「…へっ?」


 小さな声ではあったが、教室が静まり返っている為、はっきりと聞こえた。


 静かだったクラスメイト達が一斉にざわつく。


 それもそのはず、不知火燈叶が誰かに向けてあいさつをしているところなんて誰も見たことがないのだから。


「お、おはようございます!不知火さんっ!!」


 ・・・


 周りを見るとみんな俺を同情の目で見ているようだった。肝心の須本さんはというと、、、泣きそうな顔で俺を見ている。泣きたいのは俺の方だ。


 何を満足したのか不知火燈叶はコクンっとうなずき後ろの席にドカッと座る。


 …そうだった。普段不登校だったからあまり気にしていなかったが、俺の席は窓際の後ろから二番目で不知火はその後ろだ。既に後頭部にかなり強めな視線を感じていて今にでも禿げそう、助けてくれ。蛇に睨まれた蛙とはこういう事を言うんじゃなかろうか。


 今まで誰ともまともに会話をしようとしなかったあの不知火燈叶が俺にあいさつをしてきたという事は、昨日の出来事が百パーセント嘘ではなかったと言う事実が確定されてしまったのだ。


 しかし改めて考えると一体この女は俺のどこがよくて告白(間違え)をOKしたんだろうか?何か他の目的が…?そもそも本当に今、付き合っていると言えるのだろうか。


 朝のHRに教室へ入って来た担任の相沢先生も俺の方を見てギョッとしていた、正確には俺の後ろの不知火燈叶を見て。


 出席確認も不知火燈叶は返事をしなかったが、相沢先生は名前を呼び進めた。


 授業も一時間目ごとに入ってくる先生ひとりひとり不知火燈叶が机に座っているのを見てはみんな目を丸くする。俺は後ろの席を見る勇気がなかったのでどんな様子で授業を受けてるかはわからないが、次の授業の準備の中ちらりと目を向けると何一つおかれていない机に突っ伏していることからおそらくずっとこの調子だったのだろう。


 若干の違和感があったクラス内も元凶である不知火燈叶が全く動かないので、気づけばいつもの雰囲気に戻っていた。


 午前中はあまり授業に集中できなかったが何事もなく昼休みに突入し、俺が席を立とうとする際、後ろの不知火が何か言っているような気がしたが逃げるように教室を出た。多分気のせい?


 いつも通り購買で菓子パンと自販機から飲み物を買って隣のクラスへ行く。廊下ですれ違う数人の生徒たちからなにやら視線を感じる…。


「おっす~悟!」


 教室に入ると俺を見つけ軽く手を上げ呼んでくれたのは、中学からの親友 高岡哲たかおかてつ通称てっちゃんだ。


「おう!午前授業お疲れさん」


 いつも通り他愛もない話を続けようとしたのだが、


「あっそうそう!お前さ、すげー噂になってるぞ」


 うっわ、いきなり心あたりしかない話題ふられたーー。まぁ、なんとなくわかっていたさ。それも悪名高い不良ギャル不知火と付き合っただなんて噂にならないわけがなかったのだ。


「不知火燈叶の舎弟になったっていう、」


「ブフッ?! なんで俺が舎弟!?」


 さっき買ったばかりの紙パックいちご牛乳を吹いてしまった。


「うわっきったね!」


確かに言われてみれば昨日の放課後不知火燈叶に会ったのは誰にも見られていない、そして今朝の不知火燈叶との不自然なあいさつのやり取りから周りがそうとらえるのもわからなくはないのだが…舎弟って。


「で?実際どうなのさ、その辺僕も気になるしここで話す内容じゃなかったら移動でもするかい?」


 どうやら俺たちの周りでお昼を取っている生徒はみんなこっちをチラ見していたり聞き耳を立てている様子だった。それにいち早く気づいていたてっちゃんは気を利かせてくれたみたいだ。


「もう俺が話す前提なのかよ!まぁてっちゃんにはいつか相談しようと思ってたしいいけどさー、」


「じゃあ、さっさと昼飯食べるかー!」


「はいはい」


 てっちゃんがいつもよりテンションが高くて、露骨にニヤニヤしているのでちょっと腹が立つ。


 本当はこんな恥ずかしい告白大失敗エピソードみたいなのはあまり話たくなかったが仕方がない。こんな爆弾を誰にも相談できないのは流石に荷が重すぎる。食後、残りの休み時間で昨日放課後に起きた事件をてっちゃんに話すことにした。

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