第2話 告白

 チラッ、チラチラ  

 

 —――ッ‼!


 不知火とお互いに気になるようでつい目がばっちり合ってしまった。


「…羽柴」


 え?


「おい、羽柴!」


「うわあ、な、んですか不知火…さん」


 まず不知火燈叶が誰かと話しているところを見たことがない、もちろん不知火から同級生に話しかけているところも。


 思わず驚いて反応が遅れてしまった。


 あと何で近づいてきてるんだよ、俺は須本さんを待つので忙しというのに。頼むからどっか行ってくれよ!もしも俺の告白シーンを不知火に邪魔されたら今までの悪い噂に告白ブレイカーの称号も加えて一生恨んでやるからな。


「これ…」


 …ッ!!?


 しっかりとした足取りで俺の正面に凛と立った。不知火がスクールバックから出してきたものには、見覚えのある手紙。


「えぁあ"、あ"っ…」


 どうやら俺は驚きすぎると変な声が出るみたいだ、ってそんなことは今どうでもいい!!なんで不知火が俺の須本さん宛ての手紙を持っているんだ?!えっ?はっ?

 

 一瞬時間が静止したように感じる、その後ゆっくりと額から冷や汗が垂れる感覚を味わい次に俺が返事をする言葉を考える。


 まさか不知火が勝手に、、、いや、俺が入れる下駄箱を間違えたのか!?グルグルと思考が脳内を駆け巡り。


「その手紙、不知火…さん?なんでここにいるんですか?」


「はぁ??」


 ビクッ


 とっさに出たのは質問であり事実の否定。どうやら俺は今起きている事をなかったことに、不知火はここにいるはずがないと思いたかったらしい。


 急に不知火の眼光が鋭くなり、こちらを睨みつけてくる。そうだ、これだ!不知火といえばこの誰も寄せ付けないような三白眼。この目に睨まれたら生徒から先生まで誰もが一瞬で黙り恐怖に陥る。


 怖ぇぇえ、俺もしかしてここでボコボコにされるか、手紙を使って何か脅されるんじゃないだろうか、、、


「おそらくお前が、もしよかったらここに来いって手紙に書いて私の下駄箱に入れたんだろうが」


「えっ——、」


 結果発表――!!(オワタ\(^o^)/〇にたい!!)


 うがあああああああああああああああ⁉入れるとこ間違えたぁああ‼ああ死にたい!いやいっそここでブン殴られる可能性だってある!はぁ、はぁ、


 まさに余命先刻されたかのような衝撃と自分のあまりの愚かさに奥歯を噛みしめる。クソッなんてことだっ…


 その後、不知火燈叶の口からとんでもない言葉が出る―――


「…ぃぃぞ」


「ひゃい?」


 今、なんて―――、


「だから、アタシが付き合ってやってもいいぞって言っている」


「へっ??」


 あれ?また時間が止った?なんなら脳裏に宇宙まで見えてきたぞ。

えっと付き合う付き合う…?俺と不知火燈叶が??いやいやいや、それはド突き合うの聞き間違えじゃないかなぁー。


「あ"?」


 ほんの数秒なのだが時間をかければかけるほど不知火燈叶の表情が険しくなっていく。


「いや、なんと言うか…」


 言葉は出ずに唾液だけごくりと飲み込んだ。


 ますます不知火の眼光が鋭くなり間合いを詰めてくる。ここで手紙を渡す相手間違えました。なんて言ったら本当に殺されてしまうかもしれない怖さだ、さっき一瞬死にたいと思ったが前言撤回、言葉の綾じゃなくて当たり前だが嫌だ!!


「あ!不知火さん、ほ、本当に俺なんかでいいんですか??キモイし地味だし、くせっ毛だしオタクだし陰キャだしキモイしキモイし…ハハハハッ!!」


 今できる全力回避ルートぉおおお!!自分を下げまくってやっぱりやめますって言わせるヤケクソ大作戦だああああーー!


「お前何を言っているんだ?アタシがいいって言ってるんだからいいに決まってんだろ?改めて言わせんなよ。…付き合うんだし、さ」


 嘘だあああああああああああああ‼誰か時を戻してくれえええっ!!


無念。作戦はあっけなく失敗に終わった。


「いきなりでわるいな羽柴、今日はこの後用事があるからまた明日!」


「え…」


 そういって不知火燈叶は何事もなかったように急いでその場を去っていく。


 ダメだダメだ何とかしないと、と考えるも体はいっさい動かない。ああ、どうしよう、、、取り返しのつかない事をしてしまった。どうしてあの日ちゃんと下駄箱を確認しなかったのか、いや違う。周りの誰にも見られまいと緊張でいそいそ下駄箱に突っ込んでしまったのだ。


 本来であれば今日は人生で一番いい日になる予定だったのに、間違えなく人生で一番後悔した日になってしまった、そしていくら願っても想い人である須本白奈さんは来るはずもなかったのだ。


 「ははは、、、」


 起きてしまったことはしょうがない、しかしまさか手紙を入れ間違えた相手が不知火燈叶で、そのまさか俺の手紙にOKを出すなんて誰が予想できただろう。


 もしかすると夢なのでは?と念のため右頬を思いっきりつねるが超痛い。泣きそう、むしろ笑うしかないというか今、俺はいったいどんな表情をしてるんだろう。


 あまりにも衝撃すぎる出来事に、この感情を共有したいとスマホを手に取るが、行動に移すのをためらう。あの不良と名高い不知火燈叶と俺が付き合うことになってしまっただなんてとんでもないニュースになってしまうからな。


 まだ明日正直に言えば助かるかもしれない、…助かるってなんだよ。


 絶望に打ちひしがれながら重い足取りで家に帰った。

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