第39話 戦いの意思

「逃げろだと?この俺に?無様に逃げ出せと?」

見るとパーティメンバーが足りない、化け物が寄ってくるのも見える。状況は大体分かった。

意識を失っていたが体に異常はない。ポーションを持っていたのか?回復系スキルの可能性もあるな。強力な攻撃スキルも隠していた様だしな。


「迎え撃つぞ」

「いいえ引きます。仲間の犠牲を無駄にするわけには行きません」

「なら勝手にしろ。俺は引かぬ、PTメンバーを囮にして逃げるタンクがどこに居る」

こいつらの事など大して興味は無い。だが今はパーティメンバーだ、であれば守る。それが俺のやることだ。


「やめなさい!意地を張る状況ではありません!」

「なら他のメンバーを集めてこい。これは意地の問題ではない、意志の問題だ。ダンジョンで意志を曲げることは出来ない」

それはダンジョンが好まない行動だ。ここで引けば俺の目標は潰える。

だから俺はタンクとしての役割を絶対に放棄しない、戦いに対する俺の意思を示す。たとえここで死ぬことになろうとも。


「【フラッシュ】!」


――――――――――


「馬鹿野郎!何故引かない!」


ホブゴブリンの攻撃を受け止めたのは九条だった。あの恐るべき攻撃を九条は再び受け止めていた。

あの状況から九条が引くことは出来ない。咲耶と山宮の二人で引いても地上までは帰れないだろう。これではみんな無駄死にじゃないか!


九条はこちらに目もくれず攻撃を捌いている。正面から見るその姿は、これまでの傲慢な態度からは想像できない真摯な姿だった。激しい意志と集中力を漲らせ、一身に攻撃を受け止めている。

後ろからは咲耶が支えている。【回復魔法】で九条を補助しながら【魔閃】の光で着実にダメージを蓄積していく。

その後ろで山宮が困った顔で棒立ちしていた。仕方ない、彼女には遠距離攻撃は出来ないし攻撃を受け止めることも出来ないんだから。

その姿が今の自分に重なって見えた。仲間が命を燃やす横で為す術なく棒立ちする俺。それを意識した瞬間、カッと何かが燃え上がるのを感じた。


「やってやる」

あいつらが戦うというなら、俺も自分の役割を果たすだけだ。

腰に下げたナイフを引き抜く、【鳥糸】の攻撃では威力が足りない。咲耶の様に遠距離から有効打は撃てず、蓮の様に前線で殲滅することも出来ない。俺は俺の出来る事をやる。死ぬ覚悟は既に済んだ。


無警戒な化け物の後ろに忍び寄り、【魔閃】が止まるタイミングで化け物の首に【鳥糸】を巻き付けて糸を引っ込める。体が引き寄せられて浮き上がった。

「死ね化け物!!」

首にナイフを突き立てる、そのまま慣性を利用して首をぐるりと切り裂いてやった。

『ブゴオオオ!』

「うおぉぉぉ!」

迫る巨大な掌を間一髪回避する。首を裂かれ暴れるホブゴブリンから一旦【鳥糸】を外し、腹に空いた【魔閃】の傷跡に突き刺してなんとか地面に降りた。


『ウギュルブウブ』

ホブゴブリンは無様な鳴き声を上げて悶え苦しんだ後に倒れて消えた。出血の影響か脳への酸素供給が断たれたか、分からんが急所で間違い無いようだ。


「やるじゃないか」

「喧しい、二人を助けにいくぞ!」

二人共無事でいてくれ。鉄平、お前も生きているよな?



――――――――――



ふわふわ、ゆらゆら、

とても気持ちがいい。ただここにいるだけで全てが満たされる。

必要なものはなにもない、食事も眠りもいらない、ただ幸福だけがある。

小さな頃、何の不安もなく家族と一緒に眠るような、完全な世界。

……いや、すこし問題があった。鎧だ。こんなヤワな鎧じゃ満足できない。そうだ、鎧を取りに行くんだった。

鎧、、、いつできるんだっけ?まぁ、いいか。いつかとりにいこう。

鎧、、、あの鎧を着て戦いたいな、取りにいこうかな?

そうだ、鎧を取りに行って、みんなと一緒に戦うんだ。俺はタンクだから、みんなの前で、みんなを守る。仲間の所に行かないと。

ん?あ、誰か来てる。じゃあここで待っていないと。ここに居ればいい、ここに居れば強くなれる。ここに居るだけでいいんだ。

強くなって今度こそあの子を守るんだ。ずっと昔、俺は怖くて動けなかったのに小さな体で助けてくれたあの子。

まだかあちゃんがいて、毎日が幸せで、なのにあの子が笑わないのが悔しくて。

長い黒髪でお姫様みたいな女の子、ひめちゃんひめちゃんと呼んでたな。

そうだ懐かしい、会いたいな。あれ?どうなったんだっけ?

まぁいいか、今はあの子を近くに感じるんだ。

とてもきもちいい、しあわせだ。

たくさんひとがきてる、1、2,3・・・7にんかな?

はやくこないかな。あの子が嫌がってる気がする。


大丈夫、今度こそ俺が守るよ。

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