第37話 最下層へ

声に驚いて振り向くと白い鎧を血で汚した男がいた。後ろにはPTメンバーらしき連中もいる。どうやら随分気を抜いてしまっていたようだ。


「九条か。あいつなら今はいない」

「知ってる奴か玲司?」

「すこしな」

「あの人、ちょっと前にも会ったよね?」

こいつ、2階層で活動しているのか?確か中学に入る前からダンジョンに行きだしたという話を聞いたが。



「なんだ、あの鎧を扱える奴を抜いてそのデカイ女を入れたのか?随分見る目が無いな」

「違う、一時的に抜けているだけだ」

「ほう、ふむ、貴様たちはまだ初心者だろう。仲間も揃っていないのに何故ここに、まさか…」

こいつ鉄平に絡んでいたな。何か思うところがあるのか。恐らく中古だったというあの鎧の元の持ち主がこいつなんだろうとは思うが。

「九条さんどうしたんすか、あいつらが邪魔なら俺がやりますよ」

「お前たちは先に戻れ、俺は用事が出来た」

「え?でも九条さん…」

「戻れと言っている」

「は、はい」

後ろのチンピラ達がこちらを睨みながら下がっていった。あいつらは知らないな、何故あんなのとつるんでいるのか。





「さて、貴様たちは奥に潜ろうとしているんじゃないか?そしてそこにはあの男がいる。もしくはいる可能性がある」

「えーっ!」

「何故そう思う」

「貴様らとは違う情報を持っているだけだ。まぁ上級探索者なら誰でも同じ結論に至るであろうよ」

「仮にそうだとしてお前に何の関係がある。首を突っ込むな」

「なに、力を貸してやろうと思ってな」

力を貸す?なんだ?こいつは何を考えている?分からん、情報が少なすぎる。新たな情報ばかりで何が正しいのかわからない。


「これは貴様らが思っている以上に大きな問題だ。そして探索者なら避けられない問題でもある。下級ダンジョンでも起こるとは知らなかったが、それ故に興味がある。俺が力を貸してやれば3階層のボス討伐くらい簡単だぞ?もっとも、攻略するわけにはいかんのだがな」



「………」

「じゃあ頼むぜ、あんたはタンクなんだろう。鉄平の穴を埋めてくれりゃ助かる」

「蓮!」

「ふん、穴埋めなど無礼だぞ。俺が率いてやろう」

「玲司、今は四の五の言ってる場合じゃない。鉄平を探すんだ」

「……そうだな。それでいい」

鉄平を救う、それが目的だ。安全に実行出来るならあいつの思惑がなんであろうと関係ない。

「咲耶、スキルは使うな。ボーガンを使え」

「…はい」

「では九条は先頭を頼む、山宮は蓮の代わりに入ってくれ。咲耶は中央で杖を、蓮は遊撃に回ってくれ」


「いくぞ、送れずについてこい」






「せいっ!」

九条の剣が安々とゴブリンを切り裂く、大言を吐くだけあって奴は強かった。

白く輝く重鎧は攻撃を寄せ付けず、取り回しの効く中型の盾、細身の片手大型剣。重量を感じさせない動きはレベルアップの恩恵か、魔術処理が行われているのか。

「これならなんとかなりそう」

一番多い正面からの敵は九条が一人で処理できる、弓も杖も放置だ。残りのメンバーで周囲の敵を相手にするが、近づいた敵は蓮と山宮が凄まじい勢いで処理するので残りの三人は遠距離攻撃に専念できる。奴一人の参加で今までとは雲泥の差だった。


「そこの階段が3階層の入口だ」

ここまでは安定して進めた。だがこの下は2階層の入口と同じ様に魔物が溜まっている可能性がある。

「よし、階段の途中で小休止、いや休憩しよう。みんな補給してくれ。下では混戦になる可能性がある。最悪は一人でここまで逃げる覚悟をしておいてくれ」

各々装備を軽く手入れして水を飲み少量の食料を食べる。死闘の前に飲食など本来論外だが、大量のゴブリンを相手にするには体力が不可欠だ。

「九条くん?あなた凄いわね!いつ頃からダンジョンに入ってるの?」

「喧しい、貴様らと馴れ合う気はない」

「え、えぇぇ……」

「ははは、フラちまったな智子」

「そんなんじゃないわよ!」

「ともちゃん、大きな声出すと危ないよ」


「咲耶、お前も少し気を抜いておけ。下を探し回る可能性もある」

「はい」

駄目か。社妹のスキルは切り札だ。回復も勿論だが、【魔閃】なら最悪の状況でも鎧を貫く事を期待できる。先程から温存は出来ているがどうなるか。

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