第36話 王仁ゴブリンダンジョン攻略
装備の整えて作戦会議を始める。山宮の装備はツケで揃える事になった。大柄な成人男性用でピッタリなので我々よりも品揃えがいい。
「鉄平の穴埋めで今回は山宮に先頭に立ってもらう。山宮は一度レベルアップをしていてスキルは【怪力】だ。重鎧は慣れていないと長時間は耐えられないので弓対策の軽装備と重盾の組み合わせで行ってもらう」
「まかせて!」
「今回は奥へ進むことになるので全方位に警戒が必要だ。先頭は山宮、中央に社妹、左が松原、右に俺、後ろは蓮でそれぞれの方向を警戒してくれ。社妹は杖を最優先に、他は近接を処理してから弓だ。弓が遠い場合は社妹に撃ち抜いてもらう。優先度は杖、左右と後ろの近接、前の近接、弓の順だ」
「承知しました」
「おう」
「わかったわ」
「山宮、お前の負担は大きい。なるべく近寄らせる前に倒すが、攻撃された場合は無理に攻撃せずに怪我が無いように集中してくれ」
「うん、分かってる。みんなに任せるよ」
「ほんとに無理はすんなよ」
「琴音の所に行く前に倒すからね!」
「ありがとう雲野くん、ともちゃん」
鉄平は一人で戦っていたんだ、俺達パーティなら進めるはず。
「行こう。鉄平に説教してやらないとな」
だが、本物のダンジョン攻略は俺達の想像を遥かに超えるものだった。
「蓮!前に回って山宮に群がってるのを減らしてくれ!」
「おう!」
「数が多すぎるよ!もう矢が…!」
「斧から潰すんだ!斧だけは近づかせるな!」
駄目だ…、数が多すぎる。二階層に降りた途端進めなくなってしまった。四方からゴブリンが集まってきて飽和寸前だ。
「クソっ!どうなっているんだ!」
「冷静になってください。一旦殲滅すれば落ち着くかも知れません」
社妹は淡々と【魔閃】でゴブリンを撃ち抜いていく。杖を優先しているが、たまに数匹まとめて撃ち抜いている。明らかにスキルの格が違う。
「だらぁ!」
蓮の【襲爪】は遠距離だと斬撃を単発で飛ばすだけだが、近接なら踊るように跳ねて連続蹴りでゴブリンを切り裂いており、その殲滅速度は社妹に迫る。
「シャア!」
俺の指先から伸びた糸がゴブリンに突き刺さる。【鳥糸】は遠近両用の便利なスキルではあるが、貫く力はないし回転も悪い。ボーガンを使っている松原の方が射程が長く便利なくらいだが、向こうはやはり矢の数が問題になるか。
「矢はまだあるから撃ち切っていい!ここを乗り切るぞ!」
「鉄平はここで一人、稼いでいたのか…」
なんとか凌いだ。1階層とは違って狩られていない魔物が溜まっていたんだろう。リポップまでは安全なはずだ。
「それまでに進むか戻るか、決めなくてはいけない」
「あん?何言ってんだよ、進むしか無いだろ。この先に鉄平が居るかもしれないんだぞ」
「進みたいのは全員同じだろう、だが2階層に降りてすぐにこれだ。3階層には更に大型のホブゴブリンも出るという。3階層で崩れてから2階層を抜けて戻るのは厳しい。今の俺達では……戦力不足だ」
「鉄平を見捨てるのか」
「そうじゃない。さっきの戦いでの討伐数は300を超えている、先週は1階層で400以上狩っているんだ。今日は1階層でレベルアップをして、明日再アタックならずっと安全に進める」
「ですが、それまで兄が無事でいる保証はありません。少しでも早いほうが希望が大きい。今回の規模で襲われ続けるわけでは無いでしょうし、3階層の入り口付近で見つけられるかも知れません」
「私はあんまり役に立ってないけど、社君が助かる可能性が高くなるなら頑張りたい」
「あたしもまだまだ頑張るよ!」
「………」
どうだろうか。
社妹にはかなり余裕があるように見えるが、あの強力なスキルを無尽蔵に撃てるものなのか?
蓮は高回転で殲滅してくれたが、その分疲れも激しいだろう。動きやすさと引き換えに一番防具に穴があるのだ、前線で止まったら一気にすり潰される危険がある。
松原の矢は俺のバッグで運んだ分を渡した。残りは社妹の分だけなので、このペースで消費しながら3階層まで行ったら、帰りは無手だろう。
山宮が一番きついか。怪我は治療したが…、盾の扱いは素人なのだ。ただ体を庇うことしか出来ないし、受け止めた時の負担も大きいだろう。彼女は棍を使ったアタッカーが本来の姿のはずだ。
「引くべきだ」
「…!」
「玲司!」
「これ以上は駄目だ。死人が出る。今日は1階層で…」
「貴様ら、あの鎧の男はどうしたんだ」
「誰だ!?」
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