第35話 希望の芽
「鉄平が戻ってない?」
「はい、2日前も朝帰りだったのですが昨日から戻らず。恐らく深夜までダンジョンに籠もって武具店に泊まっていると思うのですが、クランとして厳重に注意するべきかと」
「そうだな、では放課後集まれるメンバーで行ってみるか」
「ありがとうございます」
あいつ、一体何をやっているんだ。金か?山宮に負けたのがショックだったのか?それとも武具店の女に誑かされたか?どれもらしくないな。まずは会って話してみるか。みなで説教しなければならんな。
放課後、急な事だったが蓮と松原に加えて話を聞きつけた姫川と山宮もやってきた。
「遊びに行くわけじゃないんだが」
「悪いけど私には行く理由があるの」
「あたしは、もしかしたらあたしのせいかもって」
理由?山宮はまだ分かるが姫川も何かあったのか?山宮も杞憂だろうが。
「鉄平はそんな弱いやつじゃない、姫川は知らんが山宮は気にする必要はない」
「う、うん。でも」
「いいじゃねぇか行こうぜ、心配するやつが多い方が鉄平も反省するだろ」
「そうよ!みんな友だちじゃない!」
「そうか、そうだな。バスも来たようだ。行くぞ」
王仁ダンジョンに着いて、事情を知っている可能性の高い武具店に向かった。あの女の所に寝泊まりしているならどうしてやろうか、鉄平は山宮に殴らせるとしても女にも罰を与える必要がある等と考えていた。
が、女の答えは最悪のものだった。
「あぁ少年ね、ここには居ないし泊まってもないよ。泊めたのはバスが無くて困っていた一度きりさ。変な妄想はやめなよ中学生」
「それは…じゃ、じゃあ二日前の夜、兄はここに来たのではありませんか!?」
「あぁ来たよ、サブにすると言っていた装備一式を身に着けてダンジョンに向かった。やめとけって言ったんだけど聞かなくてね」
「そんな……では………」
「咲耶ちゃん!」
崩れ落ちる社妹を松原が支えている。俺はただそれを見ているだけだった。
鉄平が死んだ?馬鹿が!こうなるからクランを結成してパーティで行くようにしたんだろうが!勝手に無茶をして勝手に死んだ!?馬鹿野郎!!
「待ちなさい、鉄平は以前から一人で行っていたでしょ。それにここは人も多い、やられていたら気づく人がいるんじゃないかしら」
「ふふっ。そうだね、あの少年が適正装備でここのゴブリン共にやられるとは思わない。レベルアップ前でも一人で数百の魔石を持ち帰ってたからね」
「なに?どういうことだ」
「ダンジョンに呑まれたのさ。少年は明らかにダンジョンに惹かれていた、ダンジョンはそういう奴を好むからね。素質も、若さも、闘志も、全てがダンジョンの好みに合う。下級ダンジョンで呑まれるなんて私も聞いた事無いけどね」
「ダンジョンに、呑まれる?なんだそれは、そんな情報はない。いい加減な事を抜かすな!」
「そうかい、じゃあ死んじまったんじゃないか?少年は装備を身に着けて行って帰ってこなかった。後は勝手な憶測さ」
ふざけたことを!
「落ち着け玲司、生きている可能性があるなら聞いてみよう」
蓮!お前が何故落ち着いているんだ!
だが周囲を見ると取り乱しているのは俺だけだった。社妹はショックを受けているがそれだけだ。
俺だけが騒いでいた、俺だけが鉄平の死を受け止められない、俺だけが覚悟出来ていなかった。
「ダンジョンに潜れば死ぬこともある。それは鉄平も覚悟していた。あいつが一人で死んだならあいつ一人の責任だ、誰も悪くない。鉄平もきっとそう考えるぜ」
クソっ!だから嫌だったんだ!簡単に覚悟を決めて!危険を顧みずあっさり死ぬ!残される者の事を考えないのか!家族はどうなる、あいつの妹は!それを防ぐためにクランを作ったのも無意味だったのか!
「嘘は言っていないのね?」
「勿論さ、帰ってきたらちゃんと世話をする用意もしていた。少年は明らかに逸材、必要な人間だ。今でもね」
「そう、ならいいわ。でも嘘だったら制裁を覚悟していなさい」
「っ!あんた…」
なんだ?何を言っている?制裁?私刑を言っているのか?
「私は行く所が出来た。みんなはもう帰りなさい。鉄平が生きているなら私が取り戻す」
「さっきから何を言っているんだ、お前は何か知っているのか?ダンジョンに呑まれるとはなんだ?」
「答えている暇は無いの、私はもう行くわ」
「待て!」
セリナは静止を無視して駆け出してしまった。どこかに伝手があるのだろうか?あいつも最近初めてダンジョンに行ったはずなのに?分からん、だが何かを隠していたのは間違いない。
「店主、話を聞かせてもらうぞ」
「話と言ってもね、さっき話した通りさ。少年はダンジョンに潜って帰ってこない、後は私の憶測」
「ダンジョンに呑まれるとはなんだ」
「適性の高すぎる奴はダンジョンに取り込まれちまうのさ。やつには意志がある。意思があるから世界を侵食しているし、気に入った物を取り込む。そして取り込まれた物はダンジョンの一部になる。放っておけば盾二枚持ちの魔物が出るようになるかもね」
「そんな事は聞いたこともない。何故そんな事を知っている」
「上級の探索者には常識だよ、坊や達が知らないだけ。それに少年の事とは関係ないだろう。私の考えではダンジョンの奥で生きているってだけ。後はすきにしな」
「あなたは、兄のことをどう思っているのですか?」
「……ヒト種の希望、の若葉かな。期待しているよ、戻れば本物さ」
「そうですか」
ヒト種?
「よし!じゃあ行こうぜ!一番奥に行けばいいんだろ?鉄平が生きてるかも知れないなら助けに行こうぜ!」
「そうよ!良く分かんないけど出来ることがあるならやらなきゃ!」
「はい、必ず連れ戻します」
「あたしも行く!社くんには付き合ってくれって申し込まれたばかりだし!」
「え?」
「は?」
「そうだな、可能性があるならやろう。嘆くのは後でいい」
「琴音告白されたの!?」
「どういうことですか!説明してください!」
「お姉さん、着替えさせて貰うぜ」
「山宮の装備はあるのか?」
「絶対助けるよ!」
行こう、きっと生きているさ。俺達の物語はまだ始まったばかりなんだから。
――――――――――
伝統の新たな謎な感じからの俺たた打ち切りエンド風にしました。
こんな作品をここまで読んでくれた方に心からの感謝を。
いつか読まれる様になったら続きを作りたい。
新作始めました。
厄災の邪竜なのに転生したら虚弱な子爵家次男だった ーショタコンメイドと一緒に冒険者になって力を取り戻す!
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