第34話 一つの終わり

「お姉さん、昨日はお世話になりました!これ美味しいので食べてください」

「兄がお世話になりました。ありがとうございます」

「した」

「いいんだよ、こっちが勝手にした事だしね。それより坊や可愛いねぇ、泊まっていかないかい?」

警察呼びますよ。


「それより鎧と盾はどうですか?」

「ありゃ直すなら暫く掛かるね、バラして火を入れて叩かないと駄目だ。それでも2週間あれば何とかするが週末は無理だよ」

「なん・・・だと?」

不味いな、週末にはみんなで潜る約束してるのに。俺が勝手に無茶しておいてパーティ狩りには不参加とか最悪だ。

「代わりになる鎧とか無いですか?」

「無いね。もっと質の低いのならあるけど、あの鎧は中級仕様をデチューンした様な物だからね。中級向けの店で中級仕様の装備を買うなら2000万からになるよ」

ぐぬぬぬぬぬ。


「兄、自業自得だ。今週末は大人しくしていろ」

でも迷惑かけちゃうし、ダンジョン行けないし、ダンジョンが。

「稼ぎは持ってきたんです、これでサブの鎧買えませんか?」

「兄!」

「んー300万あれば一式と盾も付けるけどさ、性能は落ちるしおすすめしないよ。来週末には間に合わせるからさ、そこまで焦ることはないだろう?」

「いえ、サブは有ったほうがいいですし、お願いします」

買えないなら仕方ないが、こんな紙切れと交換して貰えるならいくらでも出すよ。

「いいのかい?妹さんは納得してないようだが」

「兄、最近ダンジョンばかりでほとんど家にも居ないじゃないか。今は休め」

家…そういえば今週は日が変わる前に帰った事は無かったな。そうだ、早く帰ろう。外は煩わしい事ばかりだ。

「必要な物なんでお願いします。長居しちゃうと妹も怒りそう何でまた来ますね」

「兄・・・なんで」

「ほら、行こうぜ。平太もいるし遅くなるとかあさんに叱られるぞ」

もう空の色も変わってきてる。良いキッズは家に帰らないとな。


バスに揺られて家路を急ぐ、片道40分程かかるので平日に通うのは結構遠いんだよな。学校が無かったら余裕あるんだけど仕方ないか。

「肉買っていこうぜ!アイスもな!」

「にく!あいす!」

「いきなり何を言ってるんだ、もう母が用意してくれているだろう」

「いいだろ、旨い肉が食いたいんだ」

金は残ってるし使っちまおう、こんなので旨い肉が食えるなんてありがてぇ。

「なんなのだまったく…」




家では咲耶の言う通りかあさんが食事の用意をしてくれていた。んじゃまぁ仕方ないか、また今度食べりゃいいや。

食事を済ませ、シャワーを浴びて家を出た。また片道40分だ。

暇だなーと考えてスマホを持っていないことに気づいた。そういえば最近全く触ってない、蓮が持ってないから顔合わせて話すのが当たり前になるんだよな。ゲームも動画も興味無くなったから全然触らなくなった。




「お姉さん戻りました!鎧見せてください!」

「少年、そうか戻ってきたんだね。いい子だよ」

にっこり笑顔で迎えてくれた。でへへ、何かお姉さんが優しいな。やはり昨晩の事で一つ壁を乗り越えたっていうか?ただの客では無くなった感じ?

「前の程じゃないからね、鎧下も必要だよ。重鎧ではあるけど重量も50kgしかない。少年に合わせた調整もしてないから上手く扱うんだよ。ほら、付けてあげるよ」

服の上から鎧下を着て、その上に鎧を装着していく。うーん、ちょっと頼りないな。でもスキルはちゃんと働いて快適だ。

「盾は同じ物だよ、量産品だからね」

盾を持って振ってみる、具合は悪くないんだが鎧の重みを活かせないからバッシュの威力が大きく落ちるな。

「鎧の修理お願いしますね。また受取に来ます」

「あぁ、楽しみにしてるよ。がんばってね」

お姉さんがハグしてくれた!鎧の上からだがスキルの影響で感触が分かっちゃうんだよなぁ!非常にドキドキしました。やはり年上は至高。



さてダンジョンに戻ってきた。

深呼吸すると力が漲る。ダンジョンの空気が力をくれるのを感じる。

お姉さんが言ってたな、俺は優れてるって、大物になるって。女子に殴り倒される俺だが、ここでは胸を張っていいんだ。

面倒な事も無い、気遣いも要らない。いやここは他のパーティが邪魔だな。いつもの2階層に帰ろう。




えーと、鎧が直るのが10日後の予定だな。忘れないようにしないとな。






こうして俺はダンジョンに呑まれた。

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