第30話 リベンジドブレイズ
「おぶぶぶぶ、魔石だけは拾わねば」
ちょっと叫んでしまったせいでゴブリンが集まってきたが、【シールドバッシュ】を使いこなすナイトに隙はなかった。
ドカドカと遠慮なくぶっ叩いてくるゴブリン共を1体ずつ潰して壊滅させた。魔石を拾い集める間にまた襲われて、弓ゴブを叩きに行ったらまた襲われて、鞄も破れてしまい、盾を裏返して魔石を乗せてなんとか持ち帰った。
「お姉さん、まだ店開いてたんですね助かりました」
「なんだい少年!ボロボロじゃないか!」
「新しい技を閃いてゴブリン達をボコボコにしてきました」
「いや鎧がボコボコなんだけど」
ボコボコではない、ちょっと斧ゴブにぶっ叩かれて欠けたり装飾が割れただけだ。勝負は俺の完全勝利。
「うわぁ!バイザーが割れてるじゃないか!これ強化アクリルとクリスタルの混合品だよ?これなかったら死んでたでしょ」
「生きてるから俺の勝ちです」
これが探索者スタイル、生き残った者がサバイバー、勝利者がウィナーなのだ。
「あの、週末までに直りますかね?」
「うーん、バイザーは取り替え出来るけど装飾は駄目かも。大量の欠けは特殊素材で戻るけど歪みを直すのはだいぶ手間がかかりそうだ。直せるけど結構かかるよこれ?腕のトゲは諦めても、盾の整備と合わせて土曜の朝までで200万だね」
「え!買った時でも300万だったのに!?」
「通常なら1000万だって言っただろ?で、どうするんだい少年?流石にこれをツケは無理だよ」
ぐぬぬぬ。足元を見られているのかそうじゃないのか、経験が無いからわからん!ここはお姉さんを信じるしか無いか…
「それじゃ200万あるのでお願いします。買い取りのツケはもう少し待ってください」
「おー!しっかり稼いで来たんだね!やるじゃないか少年!まいどあり!!残りも頼むよ!」
タンクの装備は修理代が高い。いにしえからの常識だと諦めた。
集めた魔石の数は260、これ1体ずつ叩いて倒したんだぜ。【防御】スキルのお陰で鎧の中が空調快適空間じゃなかったら頭おかしくなってたわ。
着替えて外に出たらもう23時だった。家にも連絡してないし、勢いに任せてまたソロ活してしまった。土曜日までに装備戻るし今日のことは忘れよう。俺は公園でブランコに乗って時間を潰したんだ。間違いない。
初夏の少し肌寒い爽やかな夜、駅に向かうガラガラのバスの中でスキルの実感を思い出し、とても満足した気分だった。
リベンジの覚悟は決めた。次は勝つ。
かあさんには謝りたおして、咲耶には冷たい目で見られ、起きてきた平太にはとても迷惑そうな顔をされた。次こそは絶対ちゃんと連絡します。
「おはようセリナ君」
「おはよ鉄平、気持ち悪いわよ」
なんだよやめろよ、冗談でも美人に言われると効くんだよ。冗談だよな?
「お前昨日、体育館裏でゲラゲラ笑ってたろ」
「えぇ、凄く楽しかったわ。流石ね鉄平」
こいつ…!、いや問題ない。俺は過去の自分を乗り越えたニュー俺なのだ。怒りをコントロールするのだ。
「今日はよぉ、リベンジすっからよぉ、おめぇも放課後体育館裏に顔出せや、おぉん?」
「わざわざ招待してくれるのね、楽しみにしているわ」
他所行きの笑顔でバッチリ煽りを決めてくる姫川セリナ君。昨日までの俺なら腹パンしてるね。
「……」
その後は学校に着くまで言葉はなかった。こんな日に限って玲司もみつからない。
「れーーーん!俺新しい技覚えたぜぇ!!」
「あん?お前もしかして一人でダンジョン行ったのか?」
「行ってないが?」
すぐバレた。
「まぁそれは置いといてさ、昨日山宮を俺にけしかけただろ?あれで覚悟が決まったっていうか。とにかくスキルとしての【防御】を磨いてやろうと思ったんだよ」
「あぁ、一発で失神したらしいな」
「左の盾でゴブリンの攻撃を止めながら、右の盾でゴブリンを殴っててさ、なんかこうもっと上手くやれる気がして、ある時ぴったりピースが合ったような感触があってさぁ」
「一発で倒しちゃったってガッカリしてたぞ」
「それはいーんだよ!」
クソ!やはりどうあっても名誉を挽回しなきゃいけない。俺の気持ちの問題だけじゃない、パーティのタンクである俺への信頼に関わる。
「悪いが今日、山宮を倒すぜ」
「倒すなよ」
「お~い山宮」
「あ、社くん、昨日ほんとにごめんね?」
山宮が申し訳無さそうに謝罪してくる。弱いのに叩いちゃってごめん、一発でKOしてごめん、弱いもの虐めして反省してます、そんな顔だ。
悔しい!悔しい!悔しい!そんな顔をするんじゃない!俺は最強のタンクになる男だ!!
「山宮、放課後に体育館裏に来てくれ!」
「えぇ?」
「頼む!大事な、とても大事な事なんだ!」
「う、うん。それはいいんだけど…」
「待ってるからな!」
よし、これで後は放課後を待つだけだ。俺は新スキルで山宮の攻撃を受け止め、誇りを取り戻すのだ!
放課後、体育館裏には何故か人がいっぱい居た。なんで?
「てっぺー!頑張りなさいよ!」
「鉄平、何か策があるのかー?」
「吐くなよ鉄平」
「社君!よくわからないけどがんばって!」
「……」
いつものメンバーも声援を送ってる。更に咲耶も端っこの方で見ている。どうしてこうなった。
「あ、あの、社くん。ほんとにやるの?」
「あぁ。なんか人が集まっちゃったが、俺の誇りの為、リベンジさせてくれ」
山宮はうつむいてしまった。恥ずかしがり屋の彼女には酷な状況かもしれない。別にこんな状況じゃなくてもいいのだ、次の機会にしようか。
「ありがとう社くん!あたし、今日は全力でいく!あたしの全力を社くんに受け止めてほしい!」
「おう!俺が止めてやる!俺の新スキル【シールドバッシュ】で!……はっ!?」
シールドが無いと駄目じゃん!
「いくよ!」
いや!大丈夫だ!俺の【防御】は成長したのだ!それに攻撃のタイミングを読む練習は散々やった!ジャストガードだ!自らの腹筋を盾とするのだ!
「こぉい!!」
「やぁ!」
「おごぼぉぉぉ!!!!!」
身長より高く打ち上げられ、きりもみ回転も加えて地面をバウンドした。
「アハハっ!アハハハハハハハハハハハハハ!!ゲホッゲホッ!アハハハハ!!あー!」
爆笑してる金髪美少女を睨みつけたが言葉を出せないまま俺は倒れた。
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