第31話 新たな力、新たな愛
「うおおおぉぉ!!」
俺は馬鹿だ!大馬鹿者だ!!
何がシールドバッシュだ!それ攻撃技だろ!盾ぶつける技でタンクが硬くなるのかよ!!
満座の前で女の子の腹パン一発で失神した!仲間の前で!この様で俺がタンクだから攻撃受けるって言うのか?馬鹿な!情けない!悔しい!恥ずかしい!
「お姉さん!装備出来てる!?」
「頭は大丈夫かい少年、今日は火曜日、昨日は月曜日で土曜日は4日後だよ。分かるかい?」
「じゃあそのまま着ていきます」
「あのね、小さな傷はともかく、こんなに歪んでちゃ攻撃を流せない。余計なダメージを負うことになるよ。それは装備だけじゃなく少年の体にもだ。鎧というのはただ硬いだけじゃない、攻撃を弾き、滑らせ、衝撃を分散させるんだ。こんな状態で昨日の様に攻撃を受けたらどうなるか」
「分かりました、それじゃ一般的なゴブダンジョン用装備一式をお願いします」
「はぁぁぁぁ」
お姉さんは長い溜息の後に結局ベコベコのままの鎧を装着してくれた。
やはりこいつがしっくり来る。両手にベコベコの盾を持ってダンジョンに侵入した。
狙いはレベルアップだ。俺は既にここに来て800近くのゴブを倒した。平均的には後200ほどでレベルアップするはずだ。
1度目のレベルアップはスキルを覚えて初級探索者として目覚めるだけだが、2度目以降のレベルアップではスキルと共に身体能力も上がるのだ。それで初めて初級を抜けて下級探索者と呼ばれるようになる。レベルアップせずに下級上位に来ているのは結構無茶だったりする。
昨日と同じく2階層へ向かった、昨日と同じことをするだけだ。
新品に入れ替わったバイザーをガチリと落とし、戦闘を開始した。
一体一体迎え撃ち、攻撃に合わせてカウンターでバッシュ、逸らして無防備な所にバッシュ、400kgの重量を乗せて無防備な体に打ち付ける。
弓杖の攻撃は鎧に任せて無視する。剣槍は鎧の表面を滑らせるのだが鎧が歪んでいるので上手く行かずダメージを負ってしまう。斧は確実に盾で受ける、斧が同時に2体来るときつい。
「もっと来い!もっと来いオラァ!!」
突かれ叩かれ叩き返す!もっと攻撃してこい!もっともっとだ!俺は最強のタンクになる男!
咲耶のスキルが強くてもこんな戦いは出来ない、蓮の攻撃が高回転でも処理しきれない、玲司が立ち回ってもこんな数を相手にできない。だが俺なら出来る!これがタンクの力!!
自分を奮い上げ自信を漲らせる事で、タコ殴りに耐えてスコアを稼ぎ続けた。
「もっとこい・・・げふぅ・・・おれはつよい・・・・・・ヴォエ!」
ふらふらになりながら弓ゴブリンに近づいて盾をぶつけた直後、その時は来た!
「アァオ!」
体に力が漲り疲れが吹き飛ぶ!ドクドクと血が巡り体が作り変えられていく!すごい、これが本当のレベルアップ!本当の俺!!最強の俺!!!
「ウォォォォォオオオオオ!!」
雄叫び!いやウォークライだ!!戦いを告げ!力を漲らせる俺の新スキル!!
ズドドドドドド!!
これまでに無い大群が襲ってくる!俺の闘気に当てられた哀れな贄!!全て食らってやろう!!
「こおおおおい!!」
戦いの幕が上がる!俺の進化を祝う宴が!!
「お、ねえさん……ウェエップ!……まだ。やってたんす、ね……オゥェェ!……」
「うわぁ!入ってくるな!!」
死にかけた(2夜連続)。レベルアップの恩恵でギリギリ乗り越えられたが一歩間違えたら死んでいただろう。
「ちょっとほんとに入ってこないで!表で鎧脱いで!」
お姉さんに追い出されて仕方なく外で鎧を外していった。そして鎧を脱いでスキルの効果が切れた瞬間、残り少ない栄養を大地に分け与える事になった。
「すいません、掃除しときますから」
「当たり前だよ!道具持ってくるから掃除してな!その間に鎧の状態を見ておく」
夜風に当たり、出すもの出したら気分が落ち着いた。大地を清め水を撒いていると頭が冷えて後悔が押し寄せてくる。ほんとに馬鹿なことやっちまったな。
「少年、怪我は無い?動けるかい?」
「はい、すいません迷惑かけました。遅くまでやってて助かりました」
「何言ってんだ、少年が戻らないから心配して開けてたんだよ。まぁ仕事はあるしね」
なんという優しいお言葉、疲れた体に染み入るぜ。惚れちゃいそう。
「ありがとうございます。なんとか歩けそうなので今日はこれで帰ります。明日来るので装備の整備についてはその時でいいですか」
「あのさ、もうバスも無いけど少年は家近いの?」
「え」
「とりあえず風呂入りな、着替えは無いから脱いだのを洗って来てあげるよ。1時間ほど湯に使ってゆっくり体を解すんだ。部屋を漁るんじゃないよ!」
「いやそんな事までは、時間かければ歩いて帰れますし」
「いいから言うこと聞け!」
お姉さんに泊めてもらう事になった。ずいぶん遅くまでやっていると思っていたが住居を兼ねていたらしい。
預けていたスマホを確認したら深夜2時を回っていた。色々履歴が溜まっていたが疲れを理由に後回し。
「まじか…いいのかな」
全部脱いで風呂場に追いやられた。お姉さんは腕組みして俺が脱ぐのを見張っていた。いや一旦外に出てくれよ。
「いいのかなぁ」
ゆっくり湯に浸かり、洗濯乾燥してくれた着替えに袖を通し、手料理をいただき、布団で寝かせてもらった。
「いいのかなぁ」
起きたらちゃんと名前を聞いてお礼を言おう。
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