第29話 剣が無ければ盾で殴ればいいじゃない!

負けた。完敗だ。スキル【防御】を過信した俺は山宮の拳で吹き飛び一発KOと相成った。

俺、装備無しの防御力を誇った事なんて無いんだけどな、ほんとにどうしてこうなった。

あの後の山宮は謝罪と感謝をしてくれたが、顔を見れば物足り無いというのが丸わかりだった。




悔しい、俺に足りないのは防御力だった。女子中学生(185cm)に腹パンされて失神するタンクなんて許せねえ!俺はもっと固くなるぞ!カッチカチになって腹パンなんかに負けねぇ!

「お姉さん!この金でもう一つ盾をくれ!」

「少年、まだ鎧の代金の残りを貰ってないんだけど」

「じゃあ他の店で買います」

「丁度いいのがあるよ!ほら底が刃になってる刃盾だよ、扱いには注意しなよ」

「いらん!もっと硬くで重くてデカイ奴お願いします!!」

「えぇぇ・・・」

放課後にゴブダンジョンに走り、いつもの装備屋で以前と同じ様な重盾を購入した。前回報酬30万円は無くなったが後悔はない。


盾を買ったから硬くなる?んなわけない、今から修行するんだよ!

お姉さんに鎧を付けて貰ってダンジョンへGO!待ってろよお姉さん!鎧代くらいすぐに稼いでくるぜ!!

「無茶するんじゃないよ」




ダンジョンへ突入したが他の探索者が邪魔だ。2階層への案内表示があるのでそれに従って2階層へと進む。

2階層には1階層のゴブ達に加えて斧ゴブが追加されるのだ。俺の目的はこいつだ、こいつの攻撃を真正面から受け止めるのだ!


「オラァ!来いクソゴブども!!」

大声で挑発すると大量のゴブが向かってきた!ものすごい迫力だ!!

「うおおおおおおお!!」

逃げた。全力で階段を駆け登った。魔物は階層を超えられないんだぜ!ざまぁ!




「はぁっはぁっはぁっ、お、落ち着こう」

勢いでこんなところまで来てしまった。盾買ってゴブの攻撃を受けたからって俺の体が固くなるわけないだろう。

まぁでも折角ここまで来たんだ。修行ってのも大袈裟だが一人で戦ってスキルの慣熟訓練をしていこう。PTで来ると何もしないしな。

攻撃方法は盾で殴るしか無い、これも盾の扱いの練習だと思おう。大きな重盾なので殴るか押し潰すくらいしか出来ないが分厚い鉄の塊だ。ゴブくらいなら倒せるだろう。

やってやるぜ。


階段を降りて辺りを窺う。集まっていたのは散ったようだ。

階段の周囲は岩の柱があるだけの空洞、階段は太い柱に穴が開いた様になっていて周囲に壁はない。

広い空間を不安を押し殺して進んだ。どうせ今まで先制に成功した事はないので、索敵は不意をつかれない程度でいい。リラックスだ。


『ギャギャギャッ!』

来た!敵は5体、弓が2と近接3だ。落ち着け、昨日繰り返しやったことだ、大事なのはスキル【防御】を切らさずに盾を使って倒し切ること。つまり、

「オラオラオラァ!!!!!」

まずは槍持ちから盾で殴りまくる!!

『ギャアウウ!』

飛んでくる弓はカツンカツンと鎧で跳ね返るだけ、右の盾で殴りながら左の盾で剣を受ける。攻撃を逸らさずに受けると手首に酷い負担がある。受ける瞬間に少し引くことでダメージの軽減が出来るがそこであえて押す!

右手の盾は左右に振り回して殴りまくる、左手の盾はタイミングを合わせて攻撃を弾き返す、槍ゴブは数十発殴った所でやっと消えていった。


「ぶはっ!はぁ!きっつい!」

盾の扱いはスキルの補正で楽になっているが、重さは1つ50kgもある。俺はスキルでなんとか扱えているが、探索者以外では片手で扱うのは不可能な重さ。鎧と合わせて350kgはスキル無しでは起き上がることも出来ない重量だ。

「もっと【防御】を使いこなすんだ!もう甘っちょろい事は考えない!最強のタンクになるんだ!」

1体の剣ゴブを標的にして殴り倒す、盾の側面を使ったりはしない、正面から何度も何度も殴る。その間も残りの1体からの攻撃を左の盾で弾き返す。


左で弾く攻撃が1体分になった事で余裕が出来た、手応えの違いに意識が向く。こうすれば簡単に弾ける、こう受ければ弾けると分かる。最も効果的に『弾く』を行えるタイミング、攻撃がHITするほんの少し前、込めた力が武器に伝わるまでの隙、それを俺の中のスキルが教えてくれる。

右で殴る効果にも違いがある。盾の重さを活かす為の動き。右から左、左から右、上下斜め、全てに的確な体の使い方がある。スキル任せじゃない、地を蹴り体を支える足の運び、自分の重さを盾に乗せる捻り。一つ一つの打撃から最適解を探る。ただ殴るんじゃない、最高の一撃を叩き込むんだ。


「ここだ!」

左で捌いていた剣ゴブに対して最高のタイミング、最効の動きで巨大な重盾を叩きつける!

ブシャ!

水分の弾ける音と共に剣ゴブは消えた。

「おっしゃあ!」

残りの剣ゴブにも盾を叩きつけて消し去った後、弓ゴブに近寄って処分した。




「うおぉぉぉ!!」

やった!盾を使った攻撃に成功した!俺はこれを【シールドバッシュ】と名付けるぜ!

誰かに貰った技じゃない、俺は自分でスキルの性能を引き出したんだ!

「どんなもんじゃい!!」

俺は腹から雄叫びを上げた!嬉しい!探索者を初めて今が最高の時だ!俺は自分の力で過去の自分を乗り越えたのだ!やったぞー!!






360度をゴブに囲まれた事に気づいたのは魔法が着弾してからだった。



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