第28話 ダンジョンだけが戦場ではない

「おはようセリナ」

「おはよ鉄平」


久しぶりな気がするいつもの朝。

探索も安定して悩みもない、面倒な学校生活も後数ヶ月と思うと前向きに楽しめるかもしれないな。

こいつと顔を合わせるのも後どのくらいだろう?俺はダンジョン通いだが、こいつは夏休みに受験勉強、秋には志望校確定して冬まで詰めて、卒業前は遊ぶことくらいあるかな?まぁ家も近いし玲司とセットで会う機会はあるかもな。

「なに?」

「いや、相変わらず美人だなと思ってな」

「そう。昔から可愛い可愛いと言ってたわね」

照れた様子なんて全く無い、自信に溢れた自然体だ。こいつ玲司に振られたらクソ面白いのにな。

「昔って、お前が越してきたのは中学入ってからだろ」

「そうだったわね」

適当な話をしながら学校に向かい、途中で玲司の背中を見つけてセリナは駆けていった。今日も朝からBSSありがとうございました。




「蓮よぉ、あのダンジョンつれぇよなぁぁ!」

「おぉ、小遣いにはなるんだけどなぁ」

学校について早速眠そうにしてる蓮を見つけて愚痴を吐いた。安全第一は納得しているが、それでも退屈なんだよ。

「下級の下位ダンジョンに別口で行ってみたいけど遠いんだよな、平日に行くのは辛い」

「何か修行でもしてみたらどうだ?」

修行ね、一応盾の扱いは練習してるのよ。でも張り合いがね、攻撃が全然響かないから練習しなくても平気なんだよな。

「俺の防御はもうどんな攻撃も受け止められるから張り合いが無いんだよ、中級まで行っても俺を傷つけられる奴はいないんじゃいか?」

「ほう……」

「やっぱ攻撃方法だよ、俺に必要なのは攻撃スキルだ」

防御力はもういいよ。



退屈な授業も今年度限りと思うと貴重な物に感じる。貴重な睡眠時間だ、最近まともに授業聞いてないし全然分からん。

もう学校来るの止めようかなと真剣に考える。

「社くん!ちょっといいかな!」

「なんだ?暇だし全然いいぞ」

山宮琴音が声を掛けてきた。体も器もデカイ山宮だが恥ずかしがり屋なところがあって、一人で声を掛けてくるなんて珍しい。

「放課後ちょっと付き合ってくれないかな。体育館裏に来て欲しいの!」

「お、おういいぞ。放課後に体育館裏な」

「うん、みんなには言わないでね!」

お手々ふりふり、なんなんですかねぇこれは。俺も稼げる男になっちゃったし?死線を潜って凄みが出ちゃったかなぁ。俺よりずっと大きい山宮だが俺はそんなの全然OKですよ!

「ぐふふふふ、ふへっ」

「鉄平気持ち悪いわよ、なにやってんのよ」

「いや?なんでもないが?」

誰にも知られちゃならない秘密なんだ、すまんね。俺は完璧にいつも通り放課後までやり過ごした。





「社くん急にごめんね、ありがとう」

「いやいいよ、それでどうしたんだ?」

どうした?と言いつつ本当はモジモジしている山宮を見て察している。俺は察しのいい男なのだ。

この流れは俺に告白と見せかけて蓮に何かを伝えてほしいってやつだ。間違いない。


「あ、あの!社くんはダンジョンでスキルを手に入れてすごい防御力があるって聞いたんだけど!」

「え?あぁうん。いつも鎧着てるからスキルでどのくらい防御力が上がったかはわかんないけど、下級上位だとダメージは受けてない」

「それで防御力を持て余してるって蓮くんに聞いたんだけど、そうなのかな?」

「そうだけど」

なんだ?何の話かわかんなくなったぞ。もっとロマンス的な話を期待してたんだが。

「じゃあっ!!あたしが思いっきり叩いてもいいかな!?」

「なんで!?」



「みんなとダンジョンに行った後、あたしもちょっと事情があってダンジョンに行くようになって、スキルを覚えたんだ。それが【怪力】」

ふむ、185cmのガチムチにスキル補正。クッソ強そうである。

「それで、ダンジョンで魔物相手に試したんだけどみんなはじけちゃって」

「はじけたのか」

「うん、それでね!蓮くんに相談してたんだけど!社くんなら受けられるんじゃないかって聞いてたんだけど!社くんも叩いてくれる相手探してたって!今日!」

「へー」

これは…いけるか?いや鎧あったほうがよくね?あの鎧さえあれば俺は無敵。な気がする。

「だからここで腹パンさせて欲しいの!」

「なんで!?」



よそう、細かい質問など今はいいじゃないか。

朝には防御力を誇っていたのに、夕方には女の子の腹パンを恐れるのか?否!俺は男の中の男!最強のタンクになる男なのだ!

なんで腹パンなのかは謎だが今は言葉は要らない、望まれたのは俺の体だけ、なら俺はそれを差し出すだけでいい。

「来いオラァ!!」

「えい!!」

「おごぼぉぉぉ!!!!!」


身長より高く打ち上げられ、無様に転がって意識が遠のいていく。

「ぶふっ!アハっ!アハハハハハハハハ!!」

爆笑してる金髪美少女を見つけたが言葉を出せないまま俺は倒れた。

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