第26話 最悪を想定しろ!

再び侵入した。

先ほどとは違い入口には他PTはいなかった。始業時間は過ぎたって事かな。

初心者ダンジョンは全1階層だったが、下級ダンジョンはどこも3階層ある。深い階層の方が敵が強い。

魔石の買取額は一緒、攻略してダンジョンを破壊するのは禁止、下級ダンジョンには宝箱は無い。となるとみんな1階層に留まるわけで。

「なるほど、みんなこうやって狩りをしてたのか」


広い空洞型の洞窟、天井からの薄暗い光の中で複数のPTが間隔を広げて移動しているのが見える。

なるほどこれならサイドアタックは少ないだろう、囲まれる心配は殆どない筈だ。

これに対して俺は酷くガッカリしてしまった。ゴブダンジョンでもこんなものか、効率的な狩りをして稼いで終わりか。こんなんでレベル上がって、それで中級でやっていけるのか?とても志が低く見える。


「よし、俺達も端の方へ行ってスペースを探すぞ。今は一匹でも多く魔物を狩ろう」

玲司、お前こんなのでいいのか?そんなに安全がいいのか?おれは・・・妥協するぜ!

「レベルが上がるまではこれでいいけど、最後は下に潜ろうな。こんなのに慣れたら中級でやっていけるか心配だ」

今はこれでいい。まずはレベルアップと金策だ。スリルと野望に身を任せたい気持ちもあるが、これはゲームじゃないんだ。簡単に強くなれるならそれを選ぶ。

「あそこが端っこみたいよ!」

俺達も列の端に入った。最初は端だったがすぐに隣も埋まり、左右が他PTで埋まった事で前面に集中できる。一応後ろも警戒。




前から襲ってくるだけのゴブリンはとても弱かった。こいつらは一番近い相手しか狙わない、そして一番前に居る俺には攻撃が効かない。

射程に入ったら撃つ、仕留められなかったら俺が止める。長射程の弓は無視して進み、近づいたら倒す。最初は難関に思えたゴブダンジョンだが、慣れてしまえば何という事もない。こりゃ作業だな。

「なあ、そろそろじゃないか?」

「あぁ、そろそろだよなぁ」

蓮とこそこそ相談する。ゴブの魔石は狸ダンジョンの20倍の価値がある。そして経験値も20倍と言われているのだ。それを既に朝から80体も倒している。

レベルアップ時の醜態は女性陣にはきつかろう。咲耶もあの後はすぐに帰りたがったからな。しっかり対策はしてきたぜ。


「正面からくるぞ!5体だ!」

玲司の言葉で身構える。今回は全部近接タイプだ。盾を構えて待っている間に矢とスキルが飛び2体に減った。

「おいしょ!」

突いてくる槍を弾き体ごと突き飛ばした。倒れたゴブリンに矢が突き刺さる。


「アピア!」


突然いいんちょが声を上げた!来たぞ!

俺は鞄から小さく折りたたんだ麻袋を取り出していいんちょに被せた。

「大丈夫だいいんちょ!少しの間この中にいるんだ!」

『アピャピャピャピャ!!』

暴れるいいんちょを袋の上から抑えつける、ゴブリンの攻撃に比べたら軽いもんよ。

奇声を上げて暴れるいいんちょを見たいような見たくないような。とにかくこれでいいんちょの尊厳は守られたのだ。


「はあぁううう!」


その時咲耶が声を上げた!しまった!咲耶はスキル玉でスキルを覚えたからまだレベルアップはしていなかったんだ!

「蓮!何か無いのか!!」

「ねぇよ!どうしようもねぇ!助けられねぇんだ!!」


「あばばばばばばばば」


前回同様の醜態を晒す咲耶。うぅっ、見ていられない。なんて可愛そうな咲耶。お前を助けられない兄を許してくれ。

「鉄平!いきなり何をしているんだ!それにお前の妹はどうしたんだ!?何が起こっている!」

「え!?」

お前も経験したんだろ!?もしかして玲司は平気だったの?

「人によって違うらしいぜ」

クソっ!また※イケメン事案かよ!そこは※イケジョも含むにしといてやれよ!


「くくくっ、アハハハハハハハハハ!!」

『ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!』


笑い声が洞窟に木霊する!もうやめてくれ!やめてっ!やめてください!


「あははははは!お兄様ご覧になって!ほーら!新しい力ですよ!」

ギュピーーーーー!!

手の平を突き出してビームを放つ咲耶、お前何者なんだよ!

「あはははははははは!もう誰も必要ありません!!これが私の力!あはははははははは!!」

『ウヒュヒュヘヘヘヘエヘェ!』

やめて…ごめんなさい…ゆるして……




5分後。

「今日は、もう…いいかな」

「兄よ、なぜ、なぜ私を……」

帰ろう、帰ればまた来られるから。




今日はここで終了した。換金額は合計85万円。1人5万円配られた。

残りをクラン資金とし、建て替えたボーガンのレンタル代と装備のメンテンナンス料をここから支払い解散した。


明日こそ本格的にがんばるぞい!

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