第23話 和服着てるのにラーメンに誘われた際の作法
「私が止めたのに無視した事も謝ってね」
セリナさん、君も結構面倒くさいトコあるよね。セリナには適当に謝罪を済ませ、咲耶にも謝った。
「兄、普段と違う雰囲気がしたぞ。取り憑かれてたりしないか?」
「怖いこと言うなよ、ちょっと熱くなっただけだ」
そう答えたが、自分でも変だったと思う。怒りを掻き立てられるような?あの鎧、呪われてたりしないだろうな?
この日はこれで解散になった。帰りのバスの中ではパーティ外で下級下位ダンジョンに行くか相談したが、やはり土曜日まで待機と決まった。
怒ったいいんちょは頑なで厳しかったよ、でもやっぱりリーダーに選んで良かった。俺達のリーダーは何があってもいいんちょだぜ。
解散して帰宅中に咲耶が家の晩飯を断っていたのを思い出し、仕方ないので残った僅かな金でラーメンを食いに行こうと誘ったら無言で腹パンされた。中学生が和服で食いに行く店なんて無いよ?牛丼を提案したらまた殴られそうだったのでテイクアウトに切り替えた。牛丼を買って家で食べるってなんとなくシュールな気がする。しない?
翌日。
学校も終わって帰宅したが、今度の土曜日までやれる事はない。咲耶に付き合って狸ダンジョンに行ってもいいが咲耶のレベルアップまでは至らないだろう。どうせゴブダンジョンでパーティを組んで強い魔物を倒せばすぐに上がるのであまり意味がない。
結局ネットで盾術の解説動画を見て練習することにした。盾に見立てた鍋蓋を構えて動き回る俺はさぞ滑稽だっただろう。
借金をした事は両親に黙っておいた。借金と言っても書類も無い口約束だ。探索者としての今後を考えないなら逃げたって平気だろう。
だけど金なんてどうだっていい、俺は自分の装備を身に着け、仲間とパーティを組み、命を賭けて戦うんだ。稼ぎなんて生きていけたら良いよ、上手く行けば勝手に付いてくる。
今はゴブダンジョンへの準備に集中する。やれる事はなんだってやるさ。
「兄、スキルの練習に付き合え」
「え?それって……」
「軽い切り傷しか治したことがない。打撲と骨折と深い切り傷、それに腹を下した場合も試したいな。安心して良い、母がポーションを手配してくれた」
ニッコリ凄惨な笑顔の咲耶。どうしてこんな子になってしまったんだ。あの優しくて礼儀正しいお姫様はどこにいっちゃったの?
「待て咲耶、お前もしかして勘違いして恥をかいたことを恨みに思ってるんじゃないだろうな」
「………」
え、何その顔。ちょっと待って怖い怖い。
「お兄様、これはただの練習です。お兄様は何も悪くありません。私の恥は私が愚かだった故です。愚かな行いには報いがある。当然ですよね?」
俺の優秀な頭脳が警鐘を鳴らす。言葉遣いが変わっているのはヤバイ。だが俺は探索者として、兄として、逃げることはしない!
「お腹下すのだけは勘弁してください」
「もう飲ませました」
駄目みたいですね。
咲耶の回復魔法は怪我にしか効果が無かった。
悲しい出来事もあったけど土曜日まで平和に過ごした。
今日はいよいよゴブダンジョンデビューだ。探索者としての闘争を初めて経験する事になる。
準備期間は長過ぎるように感じたが、今になると全然足りていない気もする。まともに戦闘したことが無いんだからそれを図るのは難しい。やっぱり一度行ってみる提案自体は間違ってなかったかもな。
自分が浮ついているのを感じる。探索者としての覚悟なんて出来てない。ただ自分の命が失われる覚悟だけは出来た。俺はパーティーの盾役だ、恐れることだけはしないと決めた。
「さあ、行こうか」
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