第5話 メンズダンジョン
「俺はちょっと周りの店覗いてから帰るよ、またな」
「鉄平、俺も行くぜ。何か食べねぇか」
解散して俺と蓮が残り、それぞれ家路についた。
「鉄平、どうだった?」
「良い感じだったと思うぞ。女子もいたしな」
男女6人でダンジョン見学に来たのだ。怪我もなく目標を達成し、仲良くお小遣いを分けて解散だ。楽しかったし、いい思い出になるだろう。
「けど、こうじゃないよな」
ちがうよな。今日はこれでいいかもしれない。けど俺が望むのはコレじゃない。きっと蓮も違うはずだ。
「だな。まぁ今日の所はここで我慢するが、潜るぜ」
蓮は、なんていうかこいつは、社会に馴染んで働くなんて姿が想像できない。ダンジョン探索者としてランキングや報酬に拘るとも思えない。もっと自由に、何にも縛られないのがこいつだろう。
「あぁ、じゃあな」
「おう」
蓮が飯を買っている間に俺は先に入った。
「オラァ!」
奥に奥に進んで狸モンスターを発見しては倒す。こいつらはナイフで刺すより蹴り飛ばしたほうが早い。でも凄く野蛮な感じがしてみんながいる時はやりにくかったんだよなー。
何度か脚に噛みつかれて、デニムがぼろぼろになってしまった。モンスターとはいえ力は弱く、ズボンの上から噛まれた程度では怪我はなかった。
夜になり人は殆どいなくなった。ここは初心者の見学用だからこんなもんだろう。
効率が上がり、一人で100匹ほど倒して外に出た。
外はもう真っ暗だ、歩き回った後の5月の夜はひんやりして気持ちが良かった。
「ふぅ」
満足だ。初日だからな、これでいいさ。別に本気で英雄になりたいわけじゃない。
中坊が走り回って半日ちょっとで5万?多すぎるだろう。なんで多すぎるほどの報酬が手に入るのか?五体満足なら誰にでも出来る仕事に思える。人が溢れてすぐに価格が暴落しても良さそうなものだ。でもそうはならない。
ダンジョンでモンスターを倒すと強くなれる。俗にレベルアップと呼ばれている。そうして強くなってから弱い魔物を倒しても魔石を落とさなくなるらしい。
狸モンスターを狩って稼げるのはいつまでか?ここでの稼ぎに慣れてしまった人達はきっともう少しだけ強いダンジョンに行くのだろう。
安全なダンジョンで安全に小遣いを稼ぎ、少しだけ強くなって、もうダンジョンと縁を切る人が最も賢いだろう。
だがレベルアップの恩恵はとても大きいらしい。今までの稼ぎを維持したい、レベルアップの恩恵、ダンジョンのランクを上げると報酬も増える。やめられないんだろうなぁ。
中級まで進むとダンジョンに宝箱が出るらしい。これはレベルに関係ないので、ここまで行くとある程度の収入を安定させられるわけだ。上手く出来てるなぁ、誘われてるようで怖い。
俺は今日のアガリを握りしめ、良い気持ちで家路についた。
「鉄平!ダンジョンに行ってきたのか!」
「あ、やべ」
親父が怒っていた。だがな親父、親に怒られて反省するのは悪いことをした時だ。俺は悪いと思ってない。
「行ってきたよ。別にダンジョンを舐めてるわけじゃない、探索者をやると決めて準備を進めてるだけだよ」
「おまえは!ダンジョンがどれだけ危ないのか分かってないんだ!」
「まぁまぁ、そんなに怒ってもダメよ。鉄平くんだってちゃんと考えてから行ったんだもんね?」
かあさんは探索者になる事を応援してくれているのかな?援護してくれて助かる。
「うん、まだ絶対じゃないしね。色々やってみるつもり」
まぁ絶対探索者一本と心に決めているんですが。
「母、兄はまた誤魔化そうとしている」
くっ、咲耶よ素直な君はどこに行ってしまったんだい?
「あ!そうだ!!ほ~ら平太、ジュース買ってきたぞ!平太の好きなピーチネクターだ」
「ん!」
ヨシ!平太が嬉しそうにジュースを飲む横でガミガミ文句を言うのは憚られるだろう。この隙に部屋に帰るぞ!
「まって鉄平くん」
「う、うん。何かな」
「今もう夜の10時だけど、ご飯は?ちゃんと用意していたんだけど」
「あ、それは」
「かあさん折角用意したんだけど、余計だったかしら?平太くんはこんな時間にジュース飲んでよかったのかな?」
「ごめんなさい」
ごめんなさいが言えるキッズは良いキッズ。
俺のダンジョン初日はこんな感じで終わった。
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