第4話 敵は凶悪な方がいい
ダンジョンには色々なタイプがある。入口は階段だったりトンネルだったり鳥居や門だったりする。中は迷路のような洞窟、広い空洞、アメリカにはSFの宇宙船内部みたいなダンジョンもあるらしい。他にも地下なのに空があったり海があったり森や平原、険しい山もあるそうだ。とにかく訳のわからないファンタジーな存在なのだ。
ここ葛の葉の狸ダンジョンは大きな盛り土に入口を付けたような洞窟型、ポピュラーで初心者に優しいダンジョンだ。壁や天井が淡く発光していて視界も良い。魔物が弱く内部も単純なダンジョンは、そのまま初心者ダンジョンとも呼ばれる。
「まずは戦ってみたいわよね、地図は買ってあるし奥に行ってみましょうよ」
地図があっても地図の扱いには慣れてないんだがな。まぁこんなに人が多いとこで突っ立っててもしかたない。ぞろぞろと奥を目指した。
「む、出たな」
10分ほど歩いて初エンカウント、角からモンスターが現れた。
狸ダンジョンで出会ったのは狸型モンスター、そらまぁそうよ。
狸と言っても可愛らしさは無く、牙を剥いた醜悪な面構えだ。
「か、可愛いわね。これ倒すの?」
セリナさん、君趣味悪いって言われない?
『ギャゥゥゥ!』
狸モンスターはお構いなしに襲いかかってくる!
「シュ!」
玲司が前に出て容赦無くナイフで切り裂いた。その一撃で狸モンスターは小さな呻きを残して消えていく。
「やるねぇ!次は俺がやらせてもらうぜ!」
蓮がはしゃぎながらモンスターの残した小さな石を拾う。
「これが魔石か、俺達はこいつを集めればいいってわけだな」
「狸の魔石は500円くらいらしいよ、いっぱい集めようね!」
500円か、高いのか安いのか。6人で分けたら100円にもならんな。
「それより水島くん!ナイフ!そんな大きいナイフ持ってたの!?」
ん?え?
「いいんちょ、武器もってる?」
「誰が委員長よ!」
つい口に出てしまった。当然だが俺もコンバットナイフを持ち込んでいる。狸ダンジョンに行くことは事前に決めてあったし、みんな用意していると思ったが?
「智子、私もナイフ持ってるわよ」
「ともちゃん、私は棒だよ。ナイフはちょっと怖いもんね」
山宮の持っているのは棒というか棍だ。金属製の六角棍てやつだな。非常に凶悪な代物である。
「いいんちょ、素手で来ちゃったかー」
「ううっ、そんな話してなかったじゃない」
恥ずかしくなって涙目でうつむくいいんちょ。ふふふ可愛い、32ポイントあげよう。
「それなら俺のナイフを使いな、俺にはこの体があるからよお」
蓮が自分のナイフを差し出す。確かにナイフを持ったいいんちょより素手の蓮の方が100倍強そうではある。
「え、でも…」
逡巡するいいんちょの手に強引にナイフを握らせた。ちょっとナイフがごつすぎる気もするが。
「しっかり頼むぜ!」
「う、うん!ありがとう雲野くん!」
顔を上げて笑顔を見せるいいんちょ。まだ一匹倒しただけなんだ、頑張っていこうぜ。
入り口付近の人の群れから離れるとそれなりに遭遇できた。ちょくちょく狸モンスターが出たが、一匹ずつ現れるモンスターを順番に倒していくだけの体験会って感じだった。
まぁこれでも基本的な事の確認とか、魔物とは言え殺す気構えみたいなのは多少出来たと思うよ。
でもこれじゃないんだよな。俺達は、少なくとも俺はこれで食っていきたいのだ。出来れば沢山稼ぎたいし上位ランカーを妄想する事だってある。
「今日はこのくらいにしておきましょ。いい経験になったと思うわ」
24匹目を狩ったところでセリナが声をかけた。異議はなく、帰りに6匹倒して丁度30匹目。
ダンジョンを出てすぐ横にある買い取り所で魔石を売った。合計15000円、一人2500円もらって解散だ。時間は18時、良いキッズは家に帰る時間。
「みんなおつかれさま~、お腹へったね~」
「ナイフありがとう雲野くん!今度はちゃんと持ってくるわ!」
「流石にこれだけじゃ強くなった気がしないわね」
「この程度ではレベルアップは無理だろう、遊びに来たようなものだ」
危険なく体験を終了し、お小遣いも手に入れた。なんとなく満足そうな雰囲気があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます