17話 海の家編 下
「失礼だな…ビキニタイプじゃないよ。ドレスタイプさ。こっちの方が似合うと思って…」
「谷口くんっ!!!!」
僕が怒りを顕にしても、谷口くんは全く動揺せずに話を続ける。
「怒った顔も素敵だね。昨日、山崎君にカメラを壊されたのが悔やまれるな…やまねちゃん。折角、滅多に来れない沖縄の海にやってきたのに泳げずじまいなんて、私はよくないと思うんだ。」
「…でも、先生が。」
「先生?…いいかい、やまねちゃん。」
俯く僕の顎をそっと上げて、目線を合わせた。
「今はそれでよくても、いつかその日の事を思い出して後悔する日がやって来る……人生はあっという間に終わるくらいに短いんだ。」
「……。」
谷口くんの瞳に、涙ぐんでいる僕が映る。
「私が言いたい事はたった一つ…やまねちゃんが今したい事をすればいいって事だよ。それをもし止めようとする奴がいたら、私や山崎君…我らが部長でとっちめてやるからさ。だから」
——少しくらいルールを破ってもいいんだよ?
「………おい、お前ら大変だ!!」
「…今いい雰囲気だったのに。話なら後で聞くから、静かにしてくれると助かるなぁ。」
「空気読んでる場合じゃねえから声かけたんだよ。今ニュース速報が入ってな。後20分後くらいにこの海岸に台風が直撃するんだと。」
「「……!!」」
僕と谷口くんは立ち上がって、レジの近くにあるテレビを観た。
【突如発生した台風66号は現在、沖縄の〇〇海岸へ急速に勢力を拡大しながら接近しています。観光客及び近くに住む住民の方々は、すぐに避難を…】
「お前ら、さっさと帰りやがれ。」
「自然災害か。これは流石に仕方ないかな…今度の夏休みにまた……ん。やまねちゃん?」
僕はスマホで山崎くんに連絡を入れるとすぐに返信が帰ってきて、嫌な予感が的中する。
——俺が見た限り、残雪はまだ集合場所に帰って来てねえな…というか谷口はともかく、お前今どこにいるんだ?
「すいません…更衣室を借りてもいいですか?」
「別に使ってもいいが…」
紙袋を持ってすぐに更衣室に向かう僕の前に谷口くんが立ちはだかった。
「これが僕の今したい事だから…お願い谷口くん…そこをどいて。」
「いや……ははっ。こうなったやまねちゃんを止めるのは無理だね…気をつけて帰ってくるんだよ。」
「ありがとう谷口くん…後で会おうね。」
僕は更衣室の中でドレスタイプの青色の水着に着替える。幸いな事にサイズは丁度よかった。
そうして僕は、男に店で止められながらも風が強く吹き雨が激しく降る店の外に出て、荒ぶり始める海へと飛び込んだのだった。
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