15話 海の家編 上

あの少女に言われた通りに僕は海の家に向かうと、店の椅子に座って泳ぐ事もせずに読書に集中している残雪さんを発見して、すぐに店内に入った。


「残雪さん…こんな所にいたんだ。僕、あの時の感謝の言葉を伝えに…」


「……!」


残雪さんは本を閉じて、ゆっくりと席を立ち店の人に代金を支払ってそスムーズに店の外へ出て行き、そのまま海に飛び込んで行ってしまった。


「え………あ。残雪さん、本忘れてるよ!!」


あまりの自然さにあっけに取られ、追いかけようと本を持って店を出ようとすると後ろから誰かに手を掴まれた。


「おい嬢ちゃん。店に入ったんだ……何か買ってけや。」


「あの、僕…男ですけど。」


「はぁ…つまらん冗談はいいから、何か買えよ。こっちも商売かかってんだわ。店を開いて3年……ずっと赤字続きだ。このままじゃ店を畳まなくちゃならんくなる。」


強面の男にそう言われて僕は渋々、売られている商品の写真や料理のメニューに目を通した。


(………た、高い。)


その値段は事前学習で調べた他の海の家と比べても、4倍くらい高い。


「えっと…少し、高くありませんか?」


男は不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「高くねえな。こちとら質に拘ってんだ。どの商品も食事も全て最高品質なのさ。」


「だから赤字続きなんじゃ……あ。」


思ってしまった事が口に出てしまい、男は眉間に皺を寄せた。


「もし払えねえなら、そうだ。嬢ちゃんの体を使って……」


「——そこまでだぜ?悪徳商人。私のやまねちゃんに手を出すなよ。」


聞き覚えのある声が店の入り口から聞こえた。


「誰だ…嬢ちゃんの彼氏か?」


「よく分かったね。私の名前は谷口馨。やまねちゃんの…彼氏さ☆」


アヒルの浮き輪をつけてドヤ顔をする谷口くんを見て、男は黙って僕に小声で囁きかける。


「嬢ちゃん…弱味でも握られてるんじゃないか?警察を呼んだ方が…」


「ち、違います!!!!!!!!!!」


変に誤解されてかつ、心の底から心配された僕はあまりの恥ずかしさで赤面しながら叫んだ。

























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