0話② 山崎聖亜の場合
「…ダメだぜ兄ちゃん。やり直しだよ。」
「……っ!?おい待て。突然俺の部屋に入って来たと思ったら荷物の中身について文句ばっかつけやがって…何様だよ!?」
妹様だよ。兄ちゃん…呆れながらそう言った。
「まず服について。この際言うけど、兄ちゃんのファッションセンスは…控えめに言っても壊滅級に終わってる。」
「控えたのにそれか。服なんてぶっちゃけ着れれば何でもいいだろ?」
「…高校は制服でそこを誤魔化せて良かったね兄ちゃん。でも、合宿だと普段着も用意するんでしょ?」
「だから、こうして服を入れてだな。」
妹…
「兄ちゃん。まさか、黒いシャツと黒いズボンで合わせる気?」
「ああ?家ではいつも着てるだろ。色なんて何の意味があるんだ??」
穢は深々とため息をついた。
「んー、普段着と外で着る服は違うんだよ。知ってる?兄ちゃんは、世間の目とか気にした事ないでしょ?」
「無論だな。一々考えた所で、拉致があかないだろ?」
「じゃあ、言い方を変える。」
——恥ずかしいの。
「…?何でお前が恥ずかしがるんだ?」
「あたしの自慢の兄ちゃんが、そんな変な格好で外を跋扈する事が…嫌。」
「………そ、そうなのか?」
「…うん。だから、服装はちゃんとして欲しいな。」
切実そうに言ってくる穢の言葉に負けて、渋々頷く事にした。
「それは…分かったが言い回し的に、他にもあるんだろ。」
「あるよ。兄ちゃんは沖縄に行ってもお風呂には入るよね。」
「当然だろ。日本人の嗜みだから…はっ。まさか」
「タオル。持って行って。」
とっても苦々しい表情で穢は言った。
「だ、だって…濡れてた方が体が涼しくなるだろ?それに沢山持って行くとかさばるし……」
「そう……兄ちゃん。歯ブラシと歯磨き粉は?」
「…爪楊枝で十分だろ?」
「体温計とか、酔い止めの薬は何処?」
「俺は別に熱とかなんねえからな。酔い止めはまだ買ってない。」
「ハンカチは?」
「別にいらなくね?使う機会がないしな。」
「サンダル…」
「裸足でいい。砂の感触を直に感じられ……」
「何で木刀を入れてるの?……飛行機に乗るの分かってる?」
「行くまでの護身用だが?」
荷物をチェックする事に、それに比例して穢の表情や目が死んでいく。
「…な?問題ないだろ。」
「………分かった。兄ちゃんはこれから、酔い止めの薬を買ってきて。それ以外の準備はあたしが責任を持って全部やるから。」
「は?…それはどういう……」
事なんだと、問う前に穢が俺の財布を投げつけた。
「出てって!!!早く買って来て!!!!兄ちゃんに全部やらせたら、あたしが恥ずか死ぬからぁ!!」
「なんだ、その斬新な死因は…痛え痛え…しょうがねえなぁ分かったぜ……買ってくればいいんだな!?」
泣き顔で俺の枕や目覚まし時計を投げつける穢を部屋に残して、俺は全速力で酔い止めの薬と穢の機嫌を直す為に、美味しそうなレモンケーキを買って家に戻った。
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