第23話 杵元くんの答え

「俺は……」

 放課後の下駄箱で杵元くんはゆっくりと口を開く。

「本当の愛なんてないんだよ!」

 感極まったように叫ぶ杵元くん。

「落ち着いて。何があったの?」

「デンガルちゃんが結婚した……」

「んん!? なんて!?」

「だから、VTuberのデンガルちゃんが結婚したんだよっ!」

 VTuber?

 確かネットで活動しているアイドルみたいなものだよね。

「え。じゃあ、なんで先生に呼び出されていたのさ?」

「ああ。あれは進路調査表の提出忘れがあったからだ。まあ、デンガルちゃんと結婚って書いたから、怒られたけど……」

「ええ……」

「いいし。来期のアニメで嫁作るし!」

 苛立った様子で下駄箱の戸を乱雑に閉める杵元くん。

「もう。だからアイドル崩れにガチ恋するな、って言っているじゃない」

 杵元くんの隣で哀しげに眉根を寄せる犬飼さん。

「あ。いつものことだから、気にしないで。ただ今回はおもいれが強かったみたいね」

 犬飼さんはやれやれと言いたげな顔で手を振る。

「ええっと。まあ、次の出会いがあるよ」

「ああ。そうだな。俺もデンガルちゃんを見返すほどの美人と付き合って見返してやるんだ。俺を選ばなかったことを後悔させてやりゅ」

 噛んだ。

 杵元くんの隣でジト目を向けている犬飼さん。

 まあ、隣にいるからね。

 苦笑を浮かべると、杵元くんが不可思議そうに首をひねっている。

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