第22話 友の苦悩

 授業が始まると杵元くんは遠い目で空を眺めていた。

「なあ、なんで人は人の上に人を作らないんだろうな? 桐谷」

「え。なに、宗教」

「ふっ。そんな低脳なやつらとは違うさ」

 キザったらしい事を言い始めた。

 何かぼーっとしているようだけど。

「こら。授業に集中せんか」

 鬼川先生が杵元くんを小突く。

 さっき呼び出していたけど、何があったのだろう。

 あの電話にしてもそうだ。

「先生。どうして俺には価値がないのでしょうか?」

「あのな。価値のない人間なんているはずもないだろう?」

 たっぷりとため息を吐き、鬼川先生は黒板に戻っていく。

「ははは」

 乾いた笑いで突っ伏す杵元くん。

 本当に何があったのだろう。


 昼休みになり、僕は杵元くんを食事に誘う。

「俺なんかが食べていいのか? ろくに食べ物ももらえない子供達がいるのに?」

「まずは自分の健康から。そうでないと他人を助けることなんてできないよ」

「ふっ。それもそうだな。頂くとしよう」

 そう言って食堂に向かう。

 最近、一緒にいることが多くなった犬飼さんに本条さんもついてきた。

 本条さんが僕に耳打ちをしてくる。

「杵元君、何があったの?」

「それが分からないんだ。先生からも呼びだされたみたいだし……」

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