第20話 ヒーロー

『パパパパッチマン!』

「そうだ。僕もヒーローになろう」

「え? おにぃ。本気?」

 鉄球を手にして綱渡りしていると、妹が目の色を変える。

 かくいう蜜柑は1トンのダンベルを持ち上げながらI字バランスをとっている。

 まあ、いつもの風景だ。

「で、ヒーローって具体的に何するの?」

「うーん。なんだろうね。分からないや」

「じゃあ、なりようがないじゃない」

 クスクスと笑う蜜柑。

「英雄譚はそんなに楽じゃないよ、おにぃ」

「そうかな?」

「そうだよ。英雄の陰にはたくさんの犠牲があるもの」

「犠牲……」

 僕はずっと引っかかっていた。

 英雄ヒーローになるにはどうすればいいのか。

 僕はまだ足りないことが多すぎる。

 普通で平凡な僕は全然なにも守れていない。

 スマホが振動する。

「あ。杵元くんからだ」

「おにぃの友だち?」

「うん。面白い人だよ」

 思わず頬が緩むくらいには。

 鉄球をいったん片手で持ち替えて、と。

「どうしたの? 杵元くん」

『なあ、俺って間違っているのか?』

「本当にどうしたの?」

『俺は間違っているか?』

「……状況が分からないけど、間違うときもあると思うよ。でも失敗してもいいと思う。なんでも最初から完璧な人間なんていないのだから」

『そうか、ありがとう』

 電話ごしの杵元くんは少し涙ぐんでいるように感じた。

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