第12話 異世界帰り

「それにしても、あの子はダメよ♡ 友昭ともあき♡」

「え? なんで?」

「だってあの子は勇者だもの♡」

「あたしもそう思うな」

「蜜柑まで……」

 苦笑を浮かべる僕。

 悪い人じゃないと思うんだけどなー。

 うーん。学校で話しかけてみよう。そうしよう。

「そうだ♡ 宿題はやった?♡」

「……はい」

 僕は一人部屋に籠もり、勉強道具をそろえる。

 でも気がのらない。

 勉強よりも本条さんのことを考えてしまう。

 彼女の笑顔、引きつった顔、青ざめた顔。

 どれも魅力的でゾクゾクと何かそそるような気分になる。

「おにぃ。ここ教えて」

「だから、ノックしろって」

 僕の意見なんて全然聴いてくれない蜜柑。

「だってぇ……」

 涙目になって僕に甘えてくる。

 そんな姿も悪くない。

「異世界では学校なんてなかったの……」

 不満そうに呟く妹。

 そりゃそうか。

「えっ!! いつ異世界に行っていたんだ!?」

「え。普通に」

 蜜柑は小首を傾げて、明るい色の髪を揺らす。

「そうなんだ」

 異世界帰りのヒロインがここにもいたんだ。

「ちなみにお母さんも、だよ?」

「し、知らなかった……」

 でもそれならなんで本条さんはダメなのだろう。

 ますます謎が深まり、その日僕は宿題に手がつかなかった。

 異世界のこと、本条さんから聞けないかな……。

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