転生少女と文化祭3

 ドラゴンの近くに来ると、今まさにドラゴンが空から降りて人を襲おうとしている所だった。アニエスはワンピースの中に忍ばせていた小型のナイフを取り出し、自分の左腕を切り付けた。そして、全速力で駆けて行くとジャンプし、血を纏わせたナイフでドラゴンの前足を切り付けた。


 ドラゴンは悲鳴のような声を上げたが、弱る様子もアニエスに怯む様子もない。薬草実習の時の犬とは格が違うと言う事か。ドラゴンが反対側の前足の爪でアニエスを引き裂こうとするが、アニエスはひらりと避けた。


 ゲームの世界では、ヒロインがマリユスと闘う具体的な描写はあまり無かったし、ナディア・フーリエがどう魔物と闘っていたのかは明言されていないので、とにかく色々な方法を試すしかない。


「アニエス、どいて!」

 エルネストが剣でドラゴンの胴体を斬り付けた。しかし、それでもドラゴンは弱らない。

「死神バチの毒を塗り付けた剣でも駄目か……」

 エルネストが、苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。


 アニエスは、何かを考え込むような表情をした。そして再び自分の左腕を切り付けると、先程ロックから借りた石を取り出し、流れる血をその黒い石に垂らした。


 すると、石がジュワっと音を立てて溶け始めた。溶けた石は透明な液となってアニエスの手から流れ落ちる。アニエスは、その液体をナイフに纏わせ、またドラゴンの前足を切り付けた。


 すると、ドラゴンは悲鳴を上げて悶え始めた。効いているようだ。ゲームの世界では、マリユスは自分の血と鉱物を化学反応させていたという話があったので、今の化学反応で新たに魔物が生み出されたらどうしようかと不安になったが、大丈夫のようでホッとした。


 アニエスは、今度はドラゴンの腹部をナイフで刺そうとしたが、ドラゴンの尻尾で弾き飛ばされる。

「……っ!!」


 アニエスは、背中から地面に叩き付けられるかと思ったが、痛みが襲ってこない。目を開けると、エルネストがアニエスの下敷きになるような形で尻もちをついていた。

「殿下、大丈夫っすか!?」

「うん、大丈夫。……あのドラゴンに止めを刺すのは難しそうだね」

「そうっすね……。さすがに二人では……」


 二人が思案していた時、声が聞こえた。

「エルネスト、アニエス、無事か!!」


 声の主は、フレデリクだった。側には、騎士団の団員と思われる男達が大勢いた。

「遅くなって済まない。後は俺達に任せろ!」

「ありがとうございます、フレデリク殿下。この液体を剣に纏わせて使って下さい」


 アニエスが、ワンピースのポケットから石を取り出し、石から流れる透明な液体を左手で掬うようにしてフレデリクに見せる。

「何だ、この液体は?」

「ナディア・フーリエが魔術を行う際使っていた石っす。詳しい事は分かりませんが、この石と私の血を反応させると魔物を弱らせる液体が生成されるようっす」

「何だって!!」

 フレデリクは驚いた顔をしたが、すぐに騎士団の男達に指示を出した。

「おい、誰か液体を入れる瓶か何か持って来い!それと、あのドラゴンと闘う際はこの液体を剣に纏わせろ!倒しやすくなるはずだ」


 エルネストは、アニエスの肩に手を置いて言った。

「アニエス、君はかなりの量の出血をしているはずだ。後は兄さん達が引き受けてくれるみたいだし、医務室に行こう」

「はい。……手当てが終わったら、ロック様にお礼と謝罪をしに行きたいっす。ロック様の石を溶かしてしまったので……それと、残っている石を頂けないか頼んでみるっす」

「わかった。無理しないでね」

 そして、二人はその場を離れた。

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