転生少女と赤ワイン4
次の日、アニエスは無事に王城を後にした。病み上がりという事で、しばらくはルヴィエ家での仕事はお休みして、家に帰る事になった。
アニエスの両親は以前ルヴィエ家に料理人として仕えていたが、今は街で大衆食堂を営んでいる。食堂の裏口から自宅部分に入ると、父親のジョズエと母親のフォスティーヌが穏やかな笑顔で迎えてくれた。
「お帰り、アニエス」
「お帰りなさい、アニエス」
「……ただいま、お父さん、お母さん」
普段無表情のアニエスも、微笑んで言葉を発した。
「手紙を読んだわ。もう体は大丈夫なの?」
フォスティーヌが少し心配そうに聞いた。
「大丈夫。お嬢が休めってうるさいから休みをもらっただけで、もう体調は問題ないっす」
「そう……荷物、部屋に置いて降りてらっしゃい。ご飯、すぐ出来るから」
「ありがとう」
アニエスは荷物を持って二階の自室に行こうとして、ふと側の棚に飾ってある写真を見た。そこに写っているのは、ウェーブがかった茶色い髪を肩の辺りまで伸ばした五歳の少女。彼女は、ジョズエとフォスティーヌの子供で、名前はロゼーヌ。五歳の時に病気で亡くなっている。生きていれば、今は十九歳になっているはずだ。
実は、アニエスはマリエット夫婦の実子ではない。赤子の時に孤児院に捨てられていたアニエスを、二人が引き取ったらしい。最初に自分が実子ではないと知った時は、実の娘ではない自分だけが生き残っている事に後ろめたさを感じたものだが、今では二人が本当に自分を愛していくれていると理解しているので、実子でない事を悩むのはやめた。
アニエスは、ロゼーヌの事で気になっている事があった。前世でプレイしていた『恋する乙女は世界を救う』は、十七歳のヒロインが攻略対象達と共に魔物を退治したり、自身が通う学園の問題を解決したりするストーリー。ヒロインはゲーム終盤で、魔物を生み出すマリユス・ヴィトリーと戦い、勝利する。
何故人間であるヒロインが勝利できたのか。それは、ヒロインがマリユスと並ぶ大魔術師、ナディア・フーリエの娘だからだ。
そのヒロインの名が、ロゼーヌなのだ。茶色い髪も緑色の瞳もこの世界のロゼーヌと同じ。もしかしたら、この世界では、五歳で亡くなったロゼーヌがヒロインと同じ力を持つはずだったのではないか。
ゲームの世界では、ヒロインは平民ながら貴族が通う学園に通っており、ブリジットの同級生という設定だった。しかしこの世界では今の所、ブリジットの同級生にそれらしい人物がいる話は聞かない。
この世界には、ヒロインの力を持つ人物がいないのではないか。マリユスが死んで十八年も経っているのに魔物は減らない。そんな状況で、この世界は大丈夫なのだろうかと、アニエスは不安を抱えていた。
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