転生少女と赤ワイン2

 アニエスとエルネストが料理を食べながら話していると、第一王子のフレデリクがブリジットを伴って会場に現れた。


「よう、あの発表はまだのようだな」

 フレデリクが笑顔でエルネストに話しかけた。フレデリクは現在十九歳。肩の辺りまで伸ばした茶色い髪を後ろで一つに縛っている。ちなみに、ゲームの世界ではメインの攻略対象である。


「うん、まだだよ。……兄さん、来るのが遅かったね」

「ああ……実は、近くの農地に魔物が出現してな。騎士団の指揮をしてたんだよ。無事魔物は退治したけど」


 この世界には、人間を襲う魔物が存在する。この世界の人間のほとんどは魔術を使えないので、魔物が出現した場合、鍛錬を積んだ騎士団の人間が大勢で魔物を退治する事になる。


 といっても、ごく少数だが、魔術を使える人間もいる。ゲームの世界では、マリユス・ヴィトリーという魔術師が、特別な鉱物と自らの血を使って魔物を生み出し、多くの犠牲者を出していた。マリユスは、黒髪を長く伸ばした青年で、アニエスと同じ紫色の瞳をしていたのを覚えている。


 この世界でも昔、ゲームの世界と同じくマリユスが魔物を生み出していたが、彼は十八年前に二十八歳の若さで亡くなった。魔物を生み出した罪で投獄され、罪人として生きる事に耐えられなくなり、自ら命を絶ったのだ。マリユスの逮捕には、ナディア・フーリエという魔術師が大きな役割を果たしたが、彼女はマリユスの逮捕時、彼に殺害されている。


 マリユスは死んで十八年経った今も魔物が出現する理由はわかっていないが、最近魔物が出現する事が増えていて、王室や騎士団はピリピリしている。


「この話はここまでにしよう。おめでたい発表がある日だしな。……エルネスト、アニエス、婚約おめでとう。それと、アニエス、ドレスが似合ってるぞ」

「ありがとうございます、フレデリク殿下」

「ありがとう、兄さん。でも、僕以外の男にアニエスが褒められると複雑な気分だな」

「そうですよ、あまりアニエスを褒めないで下さいよ。婚約者の私が側にいるんですよ」

「妬くなよ、ブリジット。俺が誰を愛しているかはわかってるだろ?」

 フレデリクとブリジットは喧嘩もするが、基本的にラブラブなカップルである。


 そうこうしている内に、王族が挨拶をする時間がやってきた。現王やフレデリクの挨拶が終わり、エルネストがアニエスの手を取って壇上に上がった。


「皆様、本日はお集まり頂き、ありがとうございます。突然ではありますが、この場を借りて皆様に報告させて頂きたい事がございます。私エルネスト・アベラールとここにおりますアニエス・マリエットは、婚約する運びとなりました」


 その瞬間、会場がざわついた。会場にいた令嬢達は、地獄に叩き落とされたような表情をしている。エルネストは容姿端麗、文武両道。おまけに地位も財産もある。エルネストの伴侶になる事を望まない女性の方が珍しいだろう。


 その後、アニエスは平民だが教養があるとか誠実な人柄だとかエルネストが言っていた気がするが、皆聞いていないようだった。


 王族の挨拶が終わると、音楽が流れ始めた。ダンスの時間だ。

「アニエス・マリエット。僕と踊って頂けますか?」

 エルネストはそう言うと、微笑みながら手を差し出した。

「はい。……でも、私、ダンスは上手くないっすよ?」

「失敗したら僕がフォローするよ」

「……では、よろしくお願い致します」


 そう言って、アニエスはエルネストの手を取った。エルネストはダンスが上手で、初心者のアニエスでも楽しく踊れた。ステップを踏みながら、アニエスは思った。こんな時間が、ずっと続けばいいのに。


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