転生少女と第二王子3
洋裁店に着くと、ベテランらしき女性の店員がサクサクとドレスを見立てていった。時間が無いのでオーダーメイドは出来ない。何着か試着し、ドレスが決定すると、エルネストは笑顔で「似合ってるよ」と言った。
店からの帰りで、二人を乗せた馬車は人気のない道を走っていた。アニエスは、またメイド服姿に戻っている。
「エルネスト殿下、本当にドレスの代金を私が支払わなくていいんすか?」
「うん、僕の婚約者になってくれたお礼だと思って、遠慮なくドレスを受け取って欲しいな」
「……承知したっす」
今までおしゃれに興味が無かったアニエスだが、明日あのドレスを着るのかと思うと、ほんの少しだけ心が躍った。
しばらく走ったところで、少し外が騒がしくなり、急に馬車が止まった。
「どうしたのかな?」
エルネストがそう言った時、馬車の扉が勢いよく開けられた。目の前には、ガラの悪そうな男が何人も立っている。
「よお、貴族様。少しばかり俺達に金を恵んでもらおうか」
そう言った男の手にはナイフが握られている。盗賊だ。人気が無いとはいえ、大通りとそんなに離れていない道で昼間から盗賊に出くわすとは。御者は盗賊に脅されて動けないのだろう。
「……分かった。金ならやるから、見逃してくれ」
エルネストは、そう言って眉間に皺を寄せながら、懐から金の入った小袋を取り出した。
男は満足げな表情で小袋を受け取ったが、ふとアニエスの方に目をやると、ニヤニヤしながら言った。
「……よく見ると、この女いい身体をしてるじゃねえか。俺達の相手をしてもらおうか。それとも、どこかへ売り飛ばそうか。……どちらでもいいか。とにかく、この女ももらって行くぜ」
男がアニエスに手を伸ばそうとした時、エルネストが男の手をはたいた。
「この人に手を出すな」
怒りのこもった表情でエルネストが男を睨みつける。
「てめえ……調子に乗るなよ」
そう言って男がナイフでエルネストを切りつけようとしたが、エルネストは側にある剣を取って男を斬りつけた。男は呻き声を上げて馬車の外に倒れる。峰打ちのようなので、命は無事だろう。
「この野郎!」
仲間の男達がエルネストに襲い掛かってくる。エルネストが次々と男達を倒していくが、馬車の反対側からも男がエルネストを切りつけようとしていた。
「危ない!」
アニエスが男とエルネストの間に割り込んだ。ナイフがアニエスの左肩の辺りを切り裂く。
「アニエス!!」
エルネストが叫んだ。アニエスの左肩から、血が流れ出す。
「……大丈夫っす。でん……エル様、こちらの事は気にせず戦って下さい!」
「そうはいくか!」
そう言うと、エルネストはアニエスを切りつけた男を倒した。エルネストの剣の腕は大したもので、その後も仲間の男達が次々と倒れていく。アニエスも、どこから出したのかわからない木刀で自分の身を守っていた。
全ての男を倒した後、エルネストは呟いた。
「アニエスがいるし、戦闘は避けたかったんだけどね……」
そして、ハッとした表情になってアニエスに向き直った。
「アニエス、出血量が多いじゃないか。早く医師に診せないと!……ごめん、僕が連れ出したばかりに……」
「……謝る事ないっす。殿下は、私を守ろうとしてくれたっす。……ハハッ、こんな木刀を振り回している女が殿下の婚約者だなんて、滑稽っすね。いつか、私を婚約者に選んだ本当の理由、聞かせてもらうっすからね……」
「うん……本当にごめん……」
エルネストは、悲痛な表情でアニエスをそっと抱き締めた。
その後、盗賊達は衛兵に引き渡され、アニエスは街の医師に診てもらい、二人は無事ルヴィエ邸に戻った。
アニエスの怪我を知ったブリジットが、ベッドで休めだの何かして欲しい事はないかだの騒いでいたが、何とか落ち着き、エルネストは城に帰っていった。
夜になり、アニエスは自室で一人になると、側にある大きな箱に目を向けた。その箱には、エルネストにもらったドレスが入っている。
アニエスは住み込みで働いており、メイドにしては破格の扱いだが、大きな個室を与えられている。フカフカのベッドに横たわり、アニエスは呟いた。
「……今日は、眠れそうにないっす……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます